スク水エプロンカレー

「ともかく、それでは、改めまして! 雄太さんのお世話をさせていただく、百合宮ペン子です! ペン子って読んでください!」

「とりあえず、さん付けで呼ばせていただきます、ペン子さん」


「はいっ、わたしも、差し支えなければ雄太さんと呼ばせていただきます。よろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」


 下の名前で呼ばれるのは恥ずかしいが、名字で呼ばれるのはあまりに好きじゃないので、そちらのほうがいい。


「で、さっそくですが、雄太さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか? あっ! 先ほど動いたばかりですし、お風呂がいいですよね!」


 俺の返事を訊くまでもなく、ペン子さんは浴室へ向かっていった。まぁ、お風呂っていったって、ボタン押すだけだがな……。


「あ、そうでしたっ! 先ほど雄太さんを待っている間に、カレーも作っておいたんですよっ! お風呂が入るまでに、ご飯を食べちゃいましょう!」

「は、はぁ……そうしますか」


 なんだか、すっかりペン子さんのペースだ。帰宅してから真っ直ぐに部屋にいったので、そんなものが作ってあるとは思わなかった。


 ともかく、食卓のある一階に下りる。ここのところずっと一人で食事していたので、誰かと一緒の食事なんて、久しぶりだ。


 しかも、家族以外となると、五年ぐらい前になぜか乙女にカレーを食わせられたとき以来だ。

 もっとも、あのときは食あたりを起こして、ひどい目にあったのだが。


「温め終わりましたっ! 簡単なサラダもですが、作りましたので!」


 いつの間にかエプロンをつけたペン子さんが、料理の入った皿を手際よく並べてくれる。ちなみに、スク水の上にエプロンをつけている。エプロンは、うちでは見たことのないペンギン柄のものなので、自前だろう。


 そういえば、家に帰ってきてからわけのわからない展開に巻き込まれっぱなしだったので、なにも食べてない。どうりで、腹が減るはずだ。


「そ、それでは、どうぞめしあがれ♪ ……お、お口にあえば、いいのですが」


 やや心配そうなペン子さんの表情。しかし、匂いからして、すごいおいしそうなので、大丈夫だろう。乙女のカレーを食わせられたときは、食べる前から謎の刺激臭がしてたからな。


「それでは、いただきます」


 軽く手を合わせて、スプーンでカレーとご飯を掬って、口に運ぶ。

 すると、今までに食べたことのあるカレーとは違う、複雑な味がする。


 ……これは、なにかスパイスがたくさん入っているのだろうか?

 やや辛めだが……う、うまいっ!


「ど、どうでしょうか? ちょ、ちょっと、凝りすぎてしまったかなとは思ったんですが……。そ、その、普通のカレーのほうがよかったですか?」

「いえ、これ、うまいですよ! 普通のカレーより、よっぽどおいしいです!」


「本当ですか? よかったです! 料理教室に通った甲斐がありました!」

「……そこまでしたんですか?」


「はいっ♪ サポートは大切な仕事ですから、新妻さんや花嫁修業中の方々に混じって、家事・炊事・洗濯、ばっちりこなせるように、がんばってきました!」

「そ、そうなんですか……」


 電波なだけな人かと思ったが、情熱を持って職務をしていることがわかった。この味は、一朝一夕で出せるものじゃないだろう。


「ともかく、おいしいですよ。今までで食べたカレーで一番です。というか、今まで食べた料理で一番かもしれません」


 うちの両親は幼少時から不在がちで、作り置きとかレトルトとか、弁当ばかりだったからな……。一人暮らしするようになっても、その食生活は変わらなかった。食器洗うの面倒だし。


「これから雄太さんには、いっぱいおいしいものを食べてもらいます♪ もちろん、栄養バランスもしっかり考えます!」


 人の心を掴むには、まずは胃袋からということか。まぁ、食べ盛りの俺にとっては、ありがたいことに変わりはない。


 そのまま俺は、ペン子さんの手作りカレーとサラダをおいしくいただくことにした。サラダも、新鮮なレタスとトマト、それにタマネギ系のソースが絶妙に合っていて、素晴らしい出来だった。


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