非合法組織と体操着とブルマーとスク水

 ……で。再び、俺とペン子さんは家に帰ってきた。


 飛び出したベランダから再び入ったわけだが、もし警察に追われるような状況だとこの場面を人に見られるんはまずいんじゃないかと思うんだが。幸い、あたりに通行人はいなかった。

 ともかく、この状況は予想外だ。


「あ、変身を解くときは『元通りになぁ~れ♪』と唱えると、元に戻ります」

「……元通りになぁ~れ♪」

 言われた通りに発声すると、俺の姿は元の姿に戻った。

 本当に、どういう仕組みになっているんだ。


 まぁ、それはさておき。


「なんで警察に怪しまれなきゃいけないんですか? てっきり俺は、政府公認の正義の味方だと思ってたんですが」

「そ、それは……その」


 着ぐるみの顔を脱いだペン子さんは、しどろもどろになる。ちょっぴり、涙目だ。

 女の武器は涙。しかも、こんなに美女となると、責めるのは気が進まない。

 しかし、警察に追われるような身分になるのは、ご免こうむりたい。


「じ、実は……私たちは非合法なんです。国が推し進めているのは『女の娘戦士』で……私たち『男の娘戦士』は、正式に活動を認められていないんです」

「女の娘戦士……」


 またわけのわからん単語がでてきた……。普通に女戦士じゃいけないのだろうか。


「って、まさか……さっき、乙女が戦っていたってことは……」

「あ、はい……男川さんは、政府公認第一号の女の娘戦士さんです。牝野さんのお知り合いなんですか?」

「え……ええ、まぁ……幼馴染です」


 まさか、あの男勝りの性格で凶暴な奴が『女の娘戦士』とは……。政府は人選を間違ったんじゃないか? 戦闘能力だけで見れば、全国トップクラスの剣士には違いないが……。


「政府の開発した女の娘戦士専用パワードスーツを着こなせたのは、今のところ彼女だけなんです。つまり、彼女こそが、幻獣に対抗しうる存在なんです。でも、私たちが独自に開発した『男の娘戦士』専用パワードスーツも決して性能的に劣っていません。幻獣と戦うためには、戦力が必要です。それなのに政府は『男の娘戦士』をなかなか認めてくれなくて……」


 なかなか、複雑な事情があるようだ。まぁ、正直、そんなものに巻き込んでほしくなかったが。

 しかも、敵対勢力に、幼馴染がいるとか。


「……あー、やっぱり、俺、降ります。警察に追われるの嫌ですし、そもそも乙女と戦うとなると、勝てるわけないですし……」


 幼稚園の頃から、いじめっ子みたいな奴らを片っ端からぶちのめしていたからな、乙女は。

 そして、助けられるのは、いつも俺だった。まぁ、高校になった今は、いじめられることもなくなって、乙女も俺を助けるようなことはなくなっているけど。


「迷惑なのは重々承知です……。で、ですけど、私たちを助けると思って、男の娘戦士になってもらえないでしょうか? 雄太さんの男の娘パワーは、本当にすごいんです! 百年……いえ、千年に一度レベルなんです!」

「い、いや、そんなこと言われても……」

「もちろん、お金も毎月しっかり払いますし、その、雄太さんが望むなら、私はなんだってします!」


 ペン子さんも、ずいぶんと必死なようだった。なにが彼女をここまで駆り立てるんだろう。

 しかし、ここで頷くわけにもいかない。危険な上に、警察のお尋ね者になるだなんて、リスクが大きすぎる。


「……ううっ、せっかく見つけた千年に一年の逸材を、逃すわけにはいきません! こうなったら、私は一肌脱ぎます!」


 そう宣言すると、ペン子さんは着ぐるみを脱ぎ始めた。


「えっ、いや、俺はそんな展開を望んでいませんって!」


 と言いながら、やっぱり期待してしまっている俺がいる。だって、俺も年頃の男の子だもん!

 そして、止める振りをしながら、待つこと数分。ペン子さんは、着ぐるみを全て脱いでしまった。


「ど、どうですか? 年齢的に厳しいかもしれませんが……まだまだ着こなせていると思いませんか? 自慢じゃないですが、スタイルには自信があります! 実はコスプレも趣味です!」


 着ぐるみを脱ぎ去ったペン子さんは、なぜか体操着にブルマー姿だった。自信があるというだけあって、抜群のスタイルだ。絶妙のくびれである。この体型を維持するのは、大変だろう。

 ……まぁ、あの重そうな着ぐるみを装着して動きまくるとカロリーすごそうだが。


「ひとつ、訊いていいですか?」

「は、はい。なんでしょう」


 一応、気になっていたことを訊ねることにする。

 返答次第では、即、お引取り願う重要な質問だ。


「あの……まさか、ペン子さんは男の娘じゃないですよね?」


 そういう組織なだけに、ペン子さん自身が男の娘の可能性だってある。

 それはしっかりと確認しておきたい。


「わたしは残念ながら、男の娘ではないです。男の娘戦士推進団体でも、私のような女性スタッフはたくさんいます!」

「もうひとつ、質問です。なぜ、ペン子さんは男の娘戦士推進団体に所属しているんですか? 男の娘が好きなんですか?」

「当然です! 男の娘のほうが女の子より絶対に綺麗で可愛いです! 男の娘こそ至高です! 男の娘は神です!」


 いや、そんな自信たっぷりに連呼されても!

 若干、いや、かなり引き気味になる俺である。


「そして、なぜ団体に所属しているかというと、趣味が高じて入りました! 私の他にも男の娘好きの女性スタッフはたくさんいます! というか、そういうスタッフしかいませんっ!」


 なんというか、とても残念な団体に思えてきた。ペン子さんも、美人なのに、もったいない。


「と、ともかく! 家にいる間は、ずっとこの格好で身の周りの世話をさせていただきます! 炊事・洗濯・お風呂掃除などなど家事全般、全部できますっ!」


 と言われても、それを受け入れれば俺は男の娘戦士として意味不明な闘いに従事せねばなるまい。


 しかし、電波な人間とはいえペン子さんは超美人だ。こんな人と一緒に暮らせるだなんて、滅多に経験できるものではないだろう。それに家事が面倒で仕方ない俺にとっては、またとない申し出だ。


 しかも、男の娘戦士になれば、毎月百万もらえるという。

 高校生の身分でこの金額は、でかい。でかすぎる!


 …………。こ、これは……乗るべきなのか? いや、しかし……警察からお尋ね者になるような事態は避けたいところだ。指名手配されるとか嫌すぎる!


「政治家や官僚にもロビー活動していますし、いずれ合法になると思います! というか、幻獣と戦うためには絶対に私たちの力が必要なんです!」


 相変わらず、熱弁を振るうペン子さん。そもそも、なんで現代日本に幻獣なんて現れてしまったんだ。平和な日本はどこへ行った……!?


「うーん、やっぱり、俺はちょっと……あんな幻獣と戦いたくないですし……命が危なそうじゃないですか」

「そこをなんとかお願いします! その、バックアップは完全にしますから! 飛び道具も開発を急がせます!」


 ううむ、ここまで真剣にお願いされると、断りづらい……。

 だが、あんな幻獣と戦って死ぬのはなぁ……。


「な、なら……! 私は、もう一肌脱ぎます!」


 そう言って、ペン子さんは体操着に手をかける。


「だああ! ちょっと待ってください! それ以上は!」


 さすがの俺も止めざるえない。


「いいえ、脱がせてください! ええいっ!」


 俺が止めるのを振り払って、ペン子さんは体操着とブルマーを脱いでしまった。


「うわあぁあっ! って………え?」


 そして、そこに現れたのは下着姿のペン子さんではなくて、水着姿のペン子さんだった。

 ……しかも、スクール水着か、これは!?


「ど、どうですか? この格好で、家事全般やります! そ、その……奮発して、お背中も流しちゃいます! それに、マッサージもつけますから!」


 うわああ、どんどん内容がエスカレートしている! これで承諾したら、それこそ変態みたいじゃないか! だ、だがしかし……俺だって思春期真っ盛りの男だ! 心が揺らいできてしまうっ。


「じゃあ、その……試用期間とかってないんですか?」

「試用……期間ですか? ……そうですね! 確かに、いきなり本採用だと、不安がありますものね! わかりました! まずは、一週間ほど、試してみてください! もちろん、その間のお金も出しますし、私もご奉仕させていただきます!」


 これで、一応、話は決まった。


 何事も、心の準備が必要だからな。安易に人生の選択を決めると、あとで後悔することになる。

 社会に出たときに、ブラック企業に入らないためにも。


 まぁ、非合法組織の時点で、思いっきりブラックかもしれないが!

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