変身! 男の娘戦士!

「そもそも男の娘戦士ってなんなんですか……なぜ、俺なんです?」

「そ、それはですねっ! 雄太さんに男の娘の素質があるからです!」


 いや、そんな自信たっぷりに言われても! 俺にそんな願望とか女装癖とかねーぞ!?


「……人違いじゃないんですか?」

「いいえっ、確かに、雄太さんで間違いありません! この『男の娘石』も共鳴していますし!」


 そう言って、ペン子さんはリュックからピンク色に輝くペンダントを取り出した。一見すると、宝石のようだ。


「ものは試しで、一度変身してみませんか? きっと、気に入ると思いますよっ!」

「変身って。そんなアニメや漫画のようにできるわけが……」

「大丈夫です!」


 なにが大丈夫なのか、自信たっぷりに断言するペン子さん。


「まずは、このペンダントを身に着けてですね……可愛らしく『男の娘になぁーれ♪』って、言ってください!」


 やることといえば、ひどい羞恥プレイだった!


「いや、ちょっと待ってください。そんな恥ずかしいことできませんよ!」

「その……男の娘戦士になれば、けっこうお金になりますよ? ほら、このページを見てください」


 俺は、先ほど渡された資料を見せられた。


 すると、確かに……うん、なかなかの額が書いてある。月給でこれだけもらえれば、小遣いどころか生活に困らない。


「ね、一度だけ、一度だけですからっ。お願いですっ!」


 ペン子さんはペンダントを手に、俺にすごい勢いで迫ってくる。


「わわっ、顔近いですってっ……! わ、わかりました、わかりましたからっ」


 俺はついにペン子さんの熱意に負けて、その恥ずかしい台詞を口にすることにした。



 ……どうせ、変身なんてできるわけない。この電波な人も、俺がその男の娘戦士とやらになれなかったら、引き下がるはずだ。つうか、普通に住居侵入で通報もんじゃないかと思うんだが。


「それでは、ペンダントを握って台詞を言ってみてくださいっ」

「わ、わかりました」


 言われた通りにペンダントを握って、


「……男の娘になぁーれ♪」


 例の台詞を口にした。


 ――すると、ペンダントから突然光の渦が巻き上がり、瞬時に俺の体を包み込んでしまった!


「な、なななななっ!?」


 慌てふためく俺にお構いなしに、体のあちこちが変わっていく。

 そう。服装も、体つきも、髪型も……!


「え、ええええええーーー!?」


 マジかっ!? マジでかっ!? こんなことありうるのかーーーー!?



「………………」


 そして、光が収まったときには、いつもと違う俺がいた。


 服装は、セーラー服。手足も細くて綺麗な肌で、びっくりするぐらい女っぽい。そして、脚にはニーソックスが装着されていて、絶対領域もある。


 ……ちょっと触ってみると俺の脚とは思えないぐらいにスベスベしていて、頬ずりしたいぐらいだった!


「や、やっぱり! 私の睨んだ通り、雄太さんには素質がありました!」

「い、いや、素質って……」

「見てみてください!」


 ペン子さんに手鏡を突き出される。

 ……そこには、俺とは思えないぐらいにかわいい美少女がいた!


「うえええええ!? これって、本当に俺なの!?」


 って、そう言えば、声まで変わってるよ! マジで俺は男の娘戦士とやらになってしまったのか!?

 それを証明(?)するかのように、下半身は男のままだ。ここが変化なしなのは、いいのか、悪いのか……。複雑な心境だった。


「ど、どうですっ!? すごいかわいいじゃないですか!? 正直、女の私もドキドキしてしまうぐらいに美人さんですよっ!?」


 ペン子さんは着ぐるみの両手をパタパタさせながら、早口で捲くし立ててくる。いや、そんなに唾が飛びそうなほどに興奮しなくても!


 いや、だが、しかし……。


「ううむ……」


 鏡に写るのは、そこらのアイドルが束になっても敵わないぐらいの美少女。


 パッチリと開いた瞳に、形のよい鼻と唇。なにより、肌が綺麗だ。そして、サラサラと流れるように美しい黒髪が肩のあたりまである。我ながら、心のままに触りまくりたい衝動に駆られてしまう。


「ふだん冴えない面の俺が、ここまで変わるとは……」


 それに、この声だって、声優さんのようなアニメ声だった。こんないい声があるなら、いろいろと演じたくなってしまう。それぐらいに、魅力的なボイスだ。


 と、俺がそんなことを思っているときだった。

 ペン子さんのお腹のあたりから、ピー、ピー! という、発信音のようなものが聞こえ始めた。


「――っ!?」


 その音を聴くや、ペン子さんの表情が一瞬で険しいものに変わる。


「すみません、さっそくですが、街で幻獣が暴れています!」

「……幻獣?」

「はい、敵の操る幻獣です! もう、見るからに凶悪な恐竜みたいなやつです!」


 きょ、恐竜って……。ここ、現代日本なんですが。……って、まさか。


「……え? もしかして、それと俺が戦うんですか?」

「そうです! 今の雄太さんは筋力も瞬発力も頑丈さも常人の三百倍以上になっています! しかも不思議な力『男の娘パワー』があるのでどんなに負荷がかかっても人体に損傷がおきません!」

「そんな早口で電波なことを言わないでください!」


 しかも、自信たっぷりに!

 頭痛を覚える。いったいなにがどうして、こうなった!


「話はあとです! 急ぎましょう!」


 ペン子さんは再び着ぐるみの頭を被って、もとのペンギン姿になる。


「その格好で行くんですか?」

「この着ぐるみは、実は男の娘推進団体の持っている科学技術を注ぎ込んだ世界最高レベルの戦闘支援用スーツなんですっ! 耐久度はかなり高いですし、温度調節機能なんかもついてるので意外と快適だったりします! さあ、出撃しますよ! 背中に乗ってください!」


「はい?」


 言葉の意味を測りかねている俺に向かって、ペン子さんは背中を差し出す。


「急ぎますので、飛んで行きます!」


 そう言って、ガラス戸を開けてベランダに出る。


「え、ええー!?」

「さ、早く掴まってください!」


 やっぱりこの人頭おかしいんじゃ……と思ったが、いま俺がこうして男の娘戦士になってしまっていること自体が、すでに異常なことである。


「わ……わかりました」


 俺は細腕をペン子さんの首に回して、負ぶさる形になる。


「飛ばしますから、しっかり掴まっててくださいよー!」


 不得要領のまま、俺はペン子さんの体を後ろから抱きしめる。


 はたから見れば、女子高生が着ぐるみに後ろから抱き着いているような状態だが……。俺の意識は、もろに男。着ぐるみ越しとはいえ、女性の体に密着していると、ドキドキしてしまう。


 しかし、そんなことを思ったのも、一瞬のことだった。


「うっ? ああああああああああああ!?」


 ペン子さん……というかペンギンの着ぐるみが、ものすごい勢いで、それこそ弾丸のような速さで、空へ飛び出したのだ!


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