超かわいいJK風男の娘戦士になってしまった俺はアホなクラスメイトや濃ゆいファンから応援されて恥ずかしい動画を撮られながら宇宙からの侵略者と戦う!?
秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家
第一章『男の娘戦士に選ばれた俺!?』
男の娘戦士に選ばれた俺VSペンギン美女
家に帰ってきたら、ベッドでペンギンが寝ていた。
……いや、なに言ってんだお前と言われても、実際にそうなのだから困る。
帰宅部の俺は、いつも通り、つつがなく、定刻きっちりで、自室まで帰ってきたのだ。あとはネットを巡回したり、ゲームをやったり、ラノベを読んだりと、いつもと変わらぬ日常を送るはずだった。
しかし、目の前のベッドに寝ているのはペンギン―ー正確に言うとペンギンの着ぐるみ。
何度か瞬きをしたり、自分の頬を抓ったりしても、目の前にはペンギンの着ぐるみ。
だるまさんが転んだ式で、急に振り返ってみても、やっぱりペンギンの着ぐるみだった。
その姿は、黒ゴマのようなつぶらな瞳に、青と白のツートンカラー。そして、いかにも触り心地のよさそうな、圧倒的なモフモフ感。仰向けで寝ていらっしゃる。
「しかも、というか……当然というか、中に人が入っているみたいだな」
そりゃ、着ぐるみだから、誰かが着ないと膨らまない。中身のない着ぐるみだったら、ペチャンコになるのが道理だ。
俺の家族に遊園地関係者はいない。着ぐるみを好んで着るような趣味の者もいない。そもそも、今この家に住んでいるのは俺だけだ。
「……俺は、試されているのか?」
なにかの社会実験かもしれない。あるいは、ドッキリ番組でも仕掛けられたか。カーテンを開けて窓の外を見たり、洋服ダンスを開いたりしてみたが、そこにカメラなどはなかった。
目の前には、依然としてペンギンの着ぐるみ。そして、いま気がついたことだが、よくよく耳を澄ましてみると、
「くー……くー……」
そのペンギンの着ぐるみからは安らかな寝息が聞こえている。
まさかとは思うが、中に人間などいなくて着ぐるみ自体が生きている……そうだったら、かなりホラーだ。
俺は、おそるおそる、その着ぐるみに近づいた。そして、まずは手(というか、ヒレ)を握って、モフモフしてみる。
「……やはり、このモフモフ感は着ぐるみだな」
別にヌメッてるわけではないし、体温や脈拍を感じるわけではない。
次は、ひときわ柔らかそうなお腹の部分をモフってみる。
「おおっ……モフモフだ。なんと、揉み心地がいいんだ!」
くせになりそうな柔らかさだ。そのまま、俺は掌に全神経を集中させて、夢中でモフモフ感を楽しんでしまう。
そうして手で楽しんでいると、全身で楽しみたくなってくるのが人情というものだ。
俺はベッドに上がると、その着ぐるみに真っ正面から抱きついた。
「おぉおっ……! す、素晴らしい……っ! なんという圧倒的なモフモフ感っ! これは今日から抱き枕として使いたいぐらいだな!」
中に人が入っている可能性など忘れて、俺は心のままに全身でモフモフ感を堪能する。
「……えっ?」
そのとき、ペンギンの着ぐるみから、声がした。そして、そのつぶらな瞳と、俺の目とが合う。
「……やはり、着ぐるみという名の生物が存在していたのか」
そう納得する俺だったが、
「キャアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああ!」
着ぐるみから聞こえてきたのは、女の子の声だった。
すごい叫び声に、耳がきーんとなる。
「な、ななな、なにしてるんですかぁ!?」
俺を押しのけて起き上がった着ぐるみが、抗議の声を上げてくる。しかし、つぶらな瞳のままなので、ちっとも威圧感はない。
「……いや、ただ欲望のままにモフモフ感を楽しんでしまっていただけだが……つまり、やっぱり中に人がいるということなのか?」
「と、当然ですっ!」
プンプンといった感じで、ペンギンの着ぐるみが怒っている。顔は怒っていないが、体全体で怒りを表しているのだ。
「それはすまなかったが、なぜ俺の部屋で寝ていたんだ?」
「そ、それは……」
そこで、口ごもる。いや、ここで口ごもられても困る。俺の平和な日常を乱しておいて、説明なしとはいただけない。
「……それは?」
鸚鵡(おうむ)返ししながら、先を促す。すると、
「……あなたが選ばれたからです」
急に神妙な態度になって、意味のわからないことを言われる。
「選ばれた? それと、俺のベッドで寝ていたこととの関係は?」
「そ、それは……待ちくたびれて、寝てしまってました、ごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げられる。
「そして、選ばれたというのはですね……ええと、こちらの資料を読んでください」
着ぐるみはベッドから下りると、床に置いてあった水色のリュックをゴソゴソと漁って、中からホッチキスでとめただけの数ページほどの書類を俺に手渡してくる。
「……えーと、『おめでとうございます! あなたは選ばれました!』……なんだ、この胡散臭さ百パーセントのタイトルは……」
メールだったら、即ゴミ箱行きだ。
「わ、私も、それは改善するように言ってるんですが……次のページを読んで下さい」
促されるままに、ページをめくる。そこには、
「……『あなたは男の娘戦士に選ばれました』……」
口に出して読みながら、俺の頭は、その文章を理解していなかった。いや、理解できなかったといったほうが正しい。
一度、天井を見て、ゆっくりと深呼吸をする。そして、もう一度、その文言を確認する。
「…………『あなたは男の娘戦士に選ばれました』……」
俺の頭がどうかしていないのなら、本当にそう読める。
「その……そういうことです」
いや、どういうことだ。男の娘戦士?
やっぱり、これはなにかの社会実験かドッキリか?
それとも、俺は帰り道で幼女を守ろうとして交通事故にあい、生死の境を彷徨いながらこんな意味不明な夢を見ているのか?
「ええと……。最近になって、日本で頻繁にUFOが目撃されるようになったのは知ってますよね?」
UFO……つまり、未確認飛行物体。確かに、そういうものがここ一か月で頻繁に目撃されていた。
「まぁ、毎日のようにニュースでやってますしね。なんなんでしょうね、あれ」
「それは……宇宙からの侵略者の偵察機なんです!」
ペンギンの着ぐるみは、拳(というかヒレか)を固めて、力説する。
いや、そんなこと言われても困るんだが……。
ここは……な、なんだってーーーーーー!? とか反応すべきところなのだろうか。
困惑する俺を置き去りにして、着ぐるみの話は続いていく。
「その宇宙からの侵略者と戦っている団体に、私は所属していますっ! あ、申し遅れましたが……」
ペンギンの着ぐるみは、自分の顔を両手で持ってグリグリと動かし始める。そして、そのまま、すっぽりと頭部をとってしまった。
「うぇっ!?」
そして、中から現れたのは、――超美人な女性の顔だった。ややウェーブした黒髪が肩のあたりまであり、真面目そうな印象。齢は、俺よりも五つぐらい上だろうか?
「私は、男の娘戦士推進団体、戦闘支援科の百合宮(ゆりみや)ペン子と申します。これから、雄太さんに公私様々なサポートをさせていただきます!」
「いや、ちょっと待ってください……。なんで俺が引き受けること前提で話が進んでいるんですか!」
そもそも、戦闘支援科って、まさかその宇宙人だかUFOだかと戦うっていうのか!? あまりにも電波すぎるっ!
「当然、毎月お金もお支払いいたしますし、きっと退屈しない毎日が送れると思います!それに、その…………わっ、私も全力で奉仕させていただきますっ!」
そう言って、ペン子さんは、なぜか顔を赤くして、俯いた。
……奉仕だと? けしからん響きだ。
「あの……公私様々ってことは……どういうことです?」
「そ、それは……朝から晩まで、お食事やお風呂のお世話……あ、あとっ……学校にも、ご一緒させていただきますっ」
「学校って……編入とか可能なんですか? そもそも年齢が……」
「実は、もう雄太さんの高校の編入試験を受けて合格しました! 年齢は身分証を偽造しているので大丈夫です!」
いや、そんな簡単に身分を偽造できてしまうのか……。というか、高校生というよりは、新任の教師で通用しそうなんだが……。
「ちょっと、年齢的に無理があるんじゃ……」
「う、ううっ……そうでしょうか」
俺に指摘されて、急に自信をなくしたようだ。
……って、いかんいかん、向こうのペースにはまってしまっている。このままでは、俺は得体の知れない男の娘戦士とやらにされてしまう!
「……まぁ、やっぱり他を当たってください。俺には荷が重いので……」
「そ、そんなこと言わずに、お願いしますっ。地球の平和がかかってるんですっ」
と、言われても。別に危ない思いはしたくないし、そもそも意味がわからないというか電波すぎる。
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