鳥頭とは呼ばせない! ③ハト篇

 今回のシリーズでは、二回に渡ってカラスの優秀さを語って来ました。しかし人間をあっと驚かせる技能を持つのは、何もカラスだけではありません。せいぜい人間の言葉を真似るくらいしか芸がないと思われがちな鳥類ですが、なかなか侮ることの出来ない実力を秘めています。


 街でよく見掛けるハトが、伝書鳩として利用されていたのは有名な話です。

 街中を飛び交っているのは「ドバト」と言う種類で、元々はユーラシア大陸に棲息していました。今日こんにちのように世界中で見られるようになったのは、伝書鳩や愛玩用として人間が各地に持ち込んだためです。「ドバト」と言う名前は神社やお寺のお堂に住む彼等を、「どうバト」と呼んだことに由来すると考えられています。


 彼等が日本にやって来た時期は判然としませんが、鎌倉時代の文献にはハトのレースと思われる記述が残されています。一説によれば奈良時代には、もう日本に住んでいたと言われています。また江戸時代には、米の相場情報を伝えるために利用されました。


 遠方と連絡する手段が限られていた頃、伝書鳩は世界中で活躍していました。 

 約5000年前に作られたメソポタミア文明の石板には、既に彼等の姿が登場しています。また聖書に登場するノアは、大洪水に見舞われた世界を探るためにハトを使いました。


 訓練された伝書鳩は、1000㌔以上飛ぶことが出来ると言います。またハトは40㌔先を見通す視力を持ち、最高で時速150㌔ものスピードを出すことが可能です。しかも彼等は視覚を処理する能力に優れ、あらゆるものがスローモーションのように見えるそうです。視野も広く、背中まで見通すことが出来ます。


 伝書鳩は優れた帰巣きそう本能ほんのうを持ち、見知らぬ場所からでも飼い主の下に戻ることが出来ます。

 このような芸当が可能なのは、彼等が方位磁石(コンパス)に相当する器官を持っているためだと考えられています。人間がコンパスを使うように、彼等は体内の器官で地球の磁気(=地磁気ちじき)を感じ取り、東西南北を判別しているそうです。

 更に最近では、嗅覚が重要な役目を果たしていると推察されています。現に嗅覚を麻痺させられたハトは、思うように飼い主の下へ戻れなくなってしまいます。


 以前、カラスが人間の顔を判別することを紹介しましたが、ハトも同様の能力を持っています。また顔を記憶することも可能で、自分に危害を加えた人間には近寄らなくなってしまいます。逆に毎日エサを与えていると、食べ物を出さない内から集まって来るようになります。


 人間の顔を区別するだけでも大したものですが、何と彼等には絵画を判別することも出来ると言います。実験を行ったのは慶應けいおう義塾ぎじゅく大学だいがくのグループで、訓練されたハトはモネとピカソの絵を見分けられたと言います。


 この事実は彼等に画家の特徴、つまりタッチや色の使い方を見分ける知能があることを物語っています。尚、ハトの偉大な鑑定眼かんていがんを証明した慶應けいおう義塾ぎじゅく大学だいがくのグループは、1995年にイグノーベル賞を授与されています。


 参考資料:鳥の脳力を探る

      道具を自作し持ち歩くカラス シャガールとゴッホを見分けるハト

        細川博昭著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

      身近な鳥の不思議

          庭に来る鳥から街中、水辺、野山の鳥まで、

                    魅惑的なさえずりと生態を楽しもう

        細川博昭著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

      地球ドラマチック「意外と知らないハトの話」

        2015年3月28日放送 放送局:NHKEテレ

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