鳥頭とは呼ばせない! ②カレドニアガラス篇

 知られざる鳥の知性を紹介する今回のシリーズ。前回は我々の身近に住む二種類のカラスを紹介しましたが、第二回目は遠い南の島に目を向けてみたいと思います。


亡霊葬稿ゴーストライターシュネヴィ」内で紹介した通り、南太平洋のニューカレドニアにはカレドニアガラスと言うカラスが棲んでいます。そして作中でも少し触れましたが、彼等は道具を使ってエサをることで知られています。


 カレドニアガラスの好物はカミキリムシの幼虫で、森の中の朽ち木に住んでいます。獲物の住処すみかにやって来たカレドニアガラスは、まず朽ち木に耳を近付けます。そうして幼虫の動く音を聞き取ることで、獲物がそこに潜んでいるか確かめるそうです。


 彼等の気配を悟った幼虫が息を殺している場合は、わざと音を立てることもあると言います。刺激を受けた幼虫は反射的に音を発し、カレドニアガラスに居場所を教えてしまうそうです。


 朽ち木に幼虫が隠れていることを確認したカレドニアガラスは、程よい長さの小枝をくわえます。続けて彼等は小枝を幼虫の棲む穴にみ、獲物を突き刺してしまうと言います。哀れ串刺しになった幼虫は穴の外に引きずり出され、カレドニアガラスの餌食になってしまいます。


 ただ道具を使うだけでも驚きですが、カレドニアガラスは更に高等な技術を持っています。乱暴に突き刺すのではなく、獲物を傷付けないように「釣り上げて」しまうのです。


 先の方法と同じく小枝を穴に挿入したカレドニアガラスは、その先端で幼虫を突っつきます。攻撃を受けた幼虫は、思わず棒の先端に噛み付いてしまいます。すかさずカレドニアガラスは小枝を抜き、先端をくわえた幼虫を穴の外に引っ張り出してしまうそうです。水中と陸上と言う違いこそありますが、「獲物を食い付かせ、引き上げる」と言う技法は釣りに他なりません。


 面白いことにくちばしの左右どちらで穴をほじくるか(=左右のどちらに枝の長いほうを構えるか)は個体によって決まっていると言います。

 また彼等の使う道具には、グループによって微妙な違いがあります。このことから彼等は親や他の個体が使う道具を観察し、代々模倣していくと考えられています。彼等のヒナは一年間ほど親と過ごし、ご先祖さま直伝の手法を学ぶそうです。


 更に彼等は、最低でも三種類以上の道具を使い分けることが可能です。代表例がタコノキ科のパンダヌスで、トゲの生えた葉は細かい隙間を探るのに役立ちます。


 どのような状況でどんな道具を使うかは、仲間の行動を観察して学ぶと言います。当然、自身の経験や失敗も有用なかてになります。狩りを始めたばかりの若いカラスはなかなか道具を使いこなせませんが、一、二年もしない内に華麗な技を披露するようになります。


 実のところ、道具を使う鳥は彼等の他にも存在します。前回紹介した車でクルミを割るカラスも、ある意味では道具を使ってエサをっていると言えます。

 ただしカレドニアガラスには、他の道具を使う鳥とは一線をかくす能力があります。何を隠そう、彼等には道具を「自作」することが出来るのです。


 彼等はくちばしを器用に使い、小枝やパンダヌスの葉を使いやすいように加工してしまいます。中にはフック状に枝を加工し、穴の中の幼虫を掻き出してしまう猛者もさも存在します。

 使い勝手のいい道具と判断した場合は、持ち歩くこともあると言います。苦心して作り上げた分、彼等なりに愛着があるのかも知れません。


 恐るべきカレドニアガラスは、始めて見た材料でも道具を作ることが出来ます。この事実を発見したのはイギリスのオックスフォード大学で、はなわざを披露したのはベティと名付けられたメスです。


 実験チームはフックを使わなければ取れないエサを用意し、針金をベティに渡しました。見慣れない材料にベティは少々悩みましたが、最終的には針金をフック状に作り替えたそうです。


 オックスフォード大学の行った実験は、カレドニアガラスに材料の特性を理解する知能があることを証明しました。

 フックでなければ取れないエサに対し、適切に道具を加工したことも見逃せません。この事実は彼等が目の前の状況を的確に理解し、どうすれば望む結果に辿り着くか判断出来ていることを示しています。こと限られた方法で問題に対処する能力では、人間より彼等のほうが勝っているかも知れません。


 現に彼等の住処すみかであるニューカレドニアでは、カラスが人間の先生になっています。

 ニューカレドニアの森は乾燥しており、大型の哺乳類が棲息しません。そこで現地の人々はタンパク質を得る手段として、カラスと同じカミキリムシの幼虫を食べてきました。


 幼虫をる方法はカラスと一緒で、適当な枝に食い付かせて釣り上げます。話を聞いた限りカラスが人間を真似たように思えますが、真実は逆です。実際は島民の先祖のほうが、カラスの技を盗んだと伝えられています。


 ニューカレドニアの森は大型の哺乳類だけではなく、カラスのエサとなる小さな生物も少ない場所です。彼等が道具を駆使するようになったのも、自前のくちばしだけでは充分な食料にありつけない環境が影響していると言われています。


 参考資料:鳥の脳力を探る

       道具を自作し持ち歩くカラス シャガールとゴッホを見分けるハト

          細川博昭著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

      ダーウィンが来た! 生きもの新伝説

       第172回「天才職人! 道具を作るカラス」

          2009年11月22日放送 放送局:NHK

      ダーウィンが来た! 生きもの新伝説 公式ホームページ

          http://www.nhk.or.jp/darwin/ 

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