鳥頭とは呼ばせない! ①カラス篇

亡霊葬稿ゴーストライターシュネヴィ」内で語った通り、カラスは優れた知能を持っています。古代から彼等の頭のよさは知れ渡っていたようで、各国の神話にもよく登場します。


 カナダ原住民の神話において、ワタリガラスは世界を創造したと伝えられています。また北欧神話の主神オーディンは、フギンとムニンと言う二匹のワタリガラスを従えています。二羽のカラスは世界中を飛び回り、オーディンに各地の情報を伝えているそうです。秘宝を探す冒険の途中で、二羽のカラスに苦汁を舐めさせられた方も多いのではないでしょうか。


 またギリシア神話の太陽神アポロンも、カラスを伝令として使っていました。 

 このカラスは白銀の翼を持っていましたが、後に主人の怒りを買い、真っ黒く染められてしまいます。更にアポロンはカラスを星空に追放し、からす座と言うマイナーな星座に変えてしまいました。まあ、フレアとマサムネを喰らわなかった分、カラスは運がよかったのかも知れません。


 カラスを太陽と結び付けているのは、ギリシア神話だけではありません。今でこそ不吉なイメージの強いカラスですが、古来、彼等は太陽の象徴でした。


 日本サッカー協会のシンボルとして有名な八咫烏やたがらすは、「日本書紀にほんしょき」や「古事記こじき」に登場する神のつかいです。「日本書紀にほんしょき」によれば太陽神・天照大神あまてらすおおみかみの命を受け、初代天皇である神武じんむ天皇てんのうを導いたと言います。


 八咫烏やたがらすと同じく三本の脚を持つカラスは、中国神話にも登場します。火烏かうとも呼ばれる彼等は、太陽に棲むとも太陽そのものであるとも語られています。


 カラスが太陽と関連付けられた理由には諸説あり、はっきりしたことは判っていません。一説には黒点をカラスに見立てたとも、夕焼けを背に飛ぶ姿が太陽に帰って行くように見えたとも言われています。案外、真っ黒焦げな色を見た人々が、太陽に棲んでいると勘違いしただけかも知れません。


 神々の伝令役を務めていることからも判る通り、神話には人間の言葉を話すカラスが多く登場します。勿論もちろん、実物のカラスと会話を交わすことは出来ませんが、人間の言葉を理解していないとは言い切れないかも知れません。


 事実、あまり利口なイメージがないブンチョウでも、人間の言葉を聞き分けることが出来ると言います。少なくともカラスが人間の顔を判別しているのは間違いないようで、嫌がらせをしてきた相手に後々のちのち復讐をすることもあると言われています。


 またカラスには人間の行動を観察し、それを真似る能力があります。「亡霊葬稿ゴーストライターシュネヴィ」内でも語りましたが、彼等は水飲み場で蛇口を開き、喉を潤すことが出来ます。この行動も人間が蛇口を開ける姿を観察し、どうすれば水が飲めるか学んだ結果だと考えられています。


 一匹のカラスが発見した知恵は、またたく間に他の個体にも波及していきます。

 例えば仙台せんだいにはクルミを自動車にかせ、硬い殻を割らせるカラスがいます。元々は一匹のカラスが編み出した技でしたが、今では他の個体も同様の手段を使っているそうです。


 動物の知能を図る手段の一つに、体重に対して脳がどれくらい重いか調べる方法があります。多くの方が予想される通り、上位に来るのは我々人間やイルカ、チンパンジーなどです。しかしカラスがネコやイヌより上に来ると聞いたら、耳を疑う方も多いのではないでしょうか。


 脳化のうか指数しすうと呼ばれるこの手法において、2016年現在、カラスを上回る鳥類は現れていません。仮に彼等とニワトリが同じ体重だとするなら、カラスの脳は後者より六倍近く重くなるそうです。


 そもそも我々がよく目にするカラスはハシブトガラスとハシボソガラスで、共にスズメもくカラスに属しています。ちなみにスズメもくは鳥類の中で最新かつ最大のグループで、現存する種の半数以上を内包しています。


 二種類のカラスは共に全長50㌢程度で、体重は400㌘から700㌘前後だと言われています。素人目しろうとめには全く違いがないように思えますが、ハシブトガラスの鳴き声はハシボソガラスより澄んでいます。またその名の通りハシブトガラスのくちばしは太く、ハシボソガラスのそれは前者より細いと言う違いがあります。


 地上を歩く場合も、ハシブトガラスは両足を揃え、スズメのように飛び跳ねると言います。対してハシボソガラスは、人間のように左右の足を交互に出します。食性にも微妙な違いがあり、ハシボソガラスはハシブトガラスより植物を好む傾向にあるそうです。


 ゴミ漁りが得意なイメージ通り、ハシボソガラスは古くから人里の近くに住んできた鳥です。一方、ハシブトガラスは元々森に住む鳥で、近年になってから人の近くを住処すみかにするようになりました。


 都会には食料の溢れたゴミ捨て場が山ほどあり、タカやワシなどカラスをおびやかす敵もいません。ジャングルのように密集した建造物も、森に住む彼等にとっては落ち着く環境だったのではないでしょうか。昨今では逆にハシブトガラスが人里で暮らすようになり、ハシボソガラスは街から少し離れた場所を住処すみかにしています。


 なぜカラスが優れた知能を持つのか、詳しいことは判っていません。

 一説には食料の確保に忙殺ぼうさつされなくなり、暇が出来たことが大きいと言われています。確かに水飲み場を使うためには、人間が蛇口を開けるのを観察する時間がなければなりません。


 また人間にも言える話ですが、頭を使えば使うほど脳は発達していきます。

 普通の動物はエサで頭が一杯ですが、カラスには他の物事を考える余裕が暇がありました。同時にエサに困らないと言うことは、脳に充分なエネルギーを供給出来ることを意味します。空腹では頭が回らないのは、人間も動物も同じようです。


 間抜けなペンネームからも判る通り、カラスは作者が一番好きな動物です。不気味なようでユーモラスな彼等に魅せられた作者は、財布もCORBO.コルボ(カラスと言う意味らしい)のものを使っています。何かと嫌われがちな彼等ですが、改めて観察してみると意外な発見があるかも知れません。


 参考資料:鳥の脳力を探る

      道具を自作し持ち歩くカラス シャガールとゴッホを見分けるハト

             細川博昭著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

      身近な鳥の不思議

           庭に来る鳥から街中、水辺、野山の鳥まで、

                  魅惑的なさえずりと生態を楽しもう

             細川博昭著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

      東洋神名辞典

             山北篤監修 (株)新紀元社刊

      西洋神名辞典

             山北篤監修 (株)新紀元社刊

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