ショックな生薬! ③お食事中の方はご遠慮下さい!

 知っているようで知らない漢方の世界に切り込む今回のシリーズ。前回は漢方の原料に話題を移し、生薬しょうやくとして使われる植物を紹介しました。


 漢方薬に使われる植物は数え切れないほどあり、とても紹介しきれるものではありません。そしてまたバリエーションの豊かさで言うなら、植物以外の生薬しょうやくも負けてはいません。


 肥満に効果があるとされる「防風ぼうふう通聖散つうしょうさん」には、石膏せっこうが含まれています。

 石膏せっこうには肺の熱を冷ましたり、口の渇きをやわらげる働きがあり、他にも「白虎加びゃっこか人参湯にんじんとう」や「辛夷しんい清肺湯せいはいとう」と言った漢方薬に配合されています。前者は主にドライマウスやアレルギー性皮膚炎に使われる薬で、後者は鼻炎に有効だと言います。


 他にも防風ぼうふう痛聖散つうしょうさんには、「芒硝ぼうしょう」と呼ばれる生薬しょうやくが含まれています。その正体は硫酸りゅうさんナトリウムと言う化合物で、入浴剤にも多く使われています。外見は無色の結晶で、利尿剤りにょうざいや便秘薬として使われるそうです。


 鬱病うつびょうに使われる「柴胡加さいこか竜骨りゅうこつ牡蛎湯ぼれいとう」には、哺乳類の化石が配合されています。

竜骨りゅうこつ」と呼ばれるそれには心を落ち着かせる働きがあり、不眠や動悸、眩暈めまいなどに効果を発揮するそうです。竜骨りゅうこつの材料はウシ、ウマ、サイと多岐に渡り、時にはマンモスの化石を使うこともあると言います。


 化石ではありませんが、サイやレイヨウの角も生薬しょうやくとして利用されてきました。ただし動物保護の気運が高まっている昨今、これらの材料を使うことは少なくなっているそうです。


猪苓湯ちょれいとう」と言う漢方薬に使われる「阿膠あきょう」は、ウシやロバから取ったゼラチンです。漢方では止血剤として用いますが、最近では美容にもいいと噂されているようです。


柴胡加さいこか竜骨りゅうこつ牡蛎湯ぼれいとう」にはまた、「牡蛎ぼれい」も含まれています。「牡蛎ぼれい」とはカキの貝殻のことで、やはり心を落ち着かせる作用があるそうです。


 カキ同様、海の生物であるタツノオトシゴも、乾燥させた状態で生薬しょうやくに数えられています。「海馬かいば」と呼ばれるそれには、疲労回復や精力を増強させる働きがあるそうです。


 同じく乾燥させた動物でも、口にするのに抵抗があるのが「地竜じりゅう」です。これはずばり乾燥させたミミズのことで、咳や喘息ぜんそく、関節痛に有効だと言います。解熱にも効果があると言われていますが、ミミズを食うくらいなら三日三晩寝込むほうがマシな気もします。


 ミミズと同じく環形かんけい動物どうぶつに分類されるヒルも、「水蛭すいてつ」と言う名で漢方薬に用いられています。生薬しょうやくになるのはウマビル、チャイロビル、チスイビルで、乾燥させたものを服用します。


 ゲテモノと呼ばれるくくりで言えば、アブやサソリも生薬しょうやくとして使われます。また薬局でも販売されている「消風散しょうふうさん」には、「蝉退ぜんたい」と言う生薬しょうやくが含まれています。字面じづらから薄々嫌な予感がしますが、その正体はセミの抜け殻です。

 蝉退ぜんたいには皮膚の熱をしずめ、痒みを抑える効果があると言います。何とアブラゼミの抜け殻でもいいそうなので、勇気のある方は服用してみて下さい。尚、作者は一切責任を負いません(笑)


 生薬しょうやくの材料になるのは、人間も例外ではありません。現在の衛生観念からは信じられませんが、昔は頭髪やミイラなどが漢方薬の材料として用いられていました。


 中でも究極の生薬しょうやくは、人糞かも知れません。

 甘草かんぞうの粉末を人糞にひたして作る「人中黄じんちゅうおう」は、解熱げねつや解毒に効果があると考えられています。外観は黄土色おうどいろの塊で、臭いはないそうです。テレビにも何回か取り上げられたことがあり、作者は世界の北野きたのが放り投げていたのを強烈に憶えています。


 カンゾウはマメの植物で、生薬しょうやくになるのは根の部分です。疲労感や食欲不振、咳に効果があるとされ、有名な葛根湯かっこんとうにも配合されています。


 書いている内にどんどん食欲のなくなってきた今回のシリーズ、ご満足頂けたでしょうか? 本当は黒い害虫が生薬しょうやくになることも紹介しようと思いましたが、一ヶ月くらいご飯を食べられなくなりそうなのでやめておきます。これからダイエットに挑戦しようと言う方は、ぜひグーグル先生に質問してみて下さい。


 参考資料:はじめての漢方医学 漢方治療と漢方薬のはなし

            入江祥史著  (株)創元社刊

      これ1冊できちんとわかる 図解 東洋医学

            関口善太監修 (株)マイナビ刊

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