ショックな生薬! ②マツ●ヨで買えるトリカブト

 漢方の世界を調べる内、ユンケルさんのホームページにまで行ってしまった今回のシリーズ。第二回目の今回は、漢方薬の原料となる生薬しょうやくに焦点を合わせたいと思います。尚、生薬しょうやくの説明に付いては、第一回目をご覧下さい。


 生薬しょうやくには様々な種類がありますが、最もポピュラーなのは植物の一部でしょう。

 事実、風邪薬として有名な「葛根湯かっこんとう」には、クズの根である「葛根かっこん」や「桂皮けいひ」が配合されています。桂皮けいひとはクスノキのニッケイかられる樹皮のことで、一般にはシナモンの名で知られています。


 桂皮けいひには身体を温め、発汗をうながす働きがあります。また葛根かっこんには解熱げねつ作用があり、発熱時の頭痛や背中の痛み、下痢などにも効果を発揮するそうです。葛根湯かっこんとうのみならず、葛湯くずゆと言う形で病人の口に入ることも少なくなかったと言います。


 葛湯くずゆとは粉末にしたクズの根に、水と砂糖を加えて煮た食べ物で、のりに瓜二つの外見をしています。独特のとろみのおかげで喉を通りやすく、消化しやすいのも特徴です。クズの根が解熱げねつ作用を持つ点と言い、風邪を引いた人間にとっては最適な食べ物です。


 葛根湯かっこんとうには他にも、「生姜しょうきょう」や「芍薬しゃくやく」と言った植物が含まれています。


 生姜しょうきょうとは乾燥させたショウガの根で、寒気や咳に効果を発揮すると考えられています。また辛味からみ成分のギンゲオールには、消化を助け、胃の調子を整える力があるそうです。同時に吐き気を抑え、食欲を増進させる働きもあると言います。

 他にもギンゲオールには、発汗をうながす働きがあると見られています。作者も時々、みそ汁にショウガを入れますが、普段より身体が温まるような気がします(笑)


 一方の芍薬シャクヤクとは、切り花や観賞用として人気のシャクヤクを指します。

 生薬しょうやくとして使われるのは根の部分で、痙攣けいれんや炎症をしずめる働きがあると伝えられています。実際、シャクヤクの根にはペオニフロリンと言う成分が含まれており、炎症や痛みを抑える働きをするそうです。


 更にペオニフロリンには鎮痛剤としての効果もあり、多くの漢方薬に配合されています。よく見目みめうるわしい女性を「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」と賛美しますが、本物のシャクヤクは美しいだけではないようです。

 対照的に「歩くシャクヤク」は、毒を持っていることが少なくありません。恋の過払かばらきんはいつ返って来るのでしょうか。


 シャクヤク同様、誉め言葉に使われるボタンも生薬しょうやくの一つです。薬になるのは根の皮で、漢方の世界では「牡丹皮ぼたんぴ」と呼ばれています。

 牡丹皮ぼたんぴの成分は芍薬しゃくやくと似ており、やはり頭痛や腹痛をしずめる効果があると言います。鎮静剤としても働く他、ある種の婦人病にも有効だそうです。


 食事時には鬱陶しいとしか思えない邪魔者たちも、漢方の世界では立派に役目を果たしています。


 食欲不振や胃痛に用いられる「六君りっくん子湯しとう」には、「陳皮ちんぴ」が配合されています。

 陳皮ちんぴとはウンシュウミカンの皮を日干ししたもので、消化不良や吐き気に有効だと考えられています。風邪や咳にも効果的で、お風呂に入れれば冷え性の改善も期待出来るそうです。また陳皮ちんぴには独特の苦みや香りがあり、七味しちみ唐辛子とうがらしの材料として使われています。


 ウンシュウミカンと同じく柑橘かんきつるいのキンカンも、風邪や咳に効果があると言います。生薬しょうやくとしては「金橘きんきつ」と呼ばれ、陳皮ちんぴの代用品として使われていたそうです。更にダイダイの皮は「橙皮とうひ」、ナツミカンの皮は「夏皮なつかわ」と呼ばれ、共に胃の働きを整える効果があると考えられています。


 一方、干したモモの種は「桃仁とうにん」と呼ばれ、婦人病に有効だと言います。また開花直前のつぼみを乾燥させた「白桃花はくとうか」には、利尿りにょう作用や便秘を改善する働きがあるそうです。


 奥深い漢方の世界では、猛毒のトリカブトさえ使ってしまいます。母体となる塊状の根は「烏頭うず」、それ以外の小さな根は「附子ぶし」と呼ばれ、強心剤や鎮痛剤として機能するそうです。


 トリカブトは決して特殊な材料ではなく、ドラッグストアで販売されている「八味はちみ地黄丸じおうがん」にも配合されています。とは言え、生薬しょうやくに使われるトリカブトには毒性を弱める処理がされており、該当する漢方薬を口にしたところで命に危険が及ぶことはありません。


 参考資料:自分で採れる薬になる植物図鑑

            増田和夫監修 (株)柏書房刊

      はじめての漢方医学 漢方治療と漢方薬のはなし

            入江祥史著  (株)創元社刊

      これ1冊できちんとわかる 図解 東洋医学

            関口善太監修 (株)マイナビ刊

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