第24話【宇宙人の証明】

 だがこの時、奇しくも事件はひそかに始まっていたのだ。

 実はハルヒに話しかけながら、俺は一つ御懸案事項を抱えていた。その懸案は朝、俺の下駄箱に入っていたノートの切れ端。

 そこには、

 『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て』と、明らかな女の字で書いてあった。

 結論から言うと誰もいなくなった一年五組の教室に俺は行ってしまったのだ。


 

 そこにいた人物を目にして俺はかなり意表をつかれた。まるで予想だにしなかった奴が黒板の前に立っていたからだ。

「遅いよ」

 朝倉涼子が俺に笑いかけていた。

「——人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔した方がいい』って言うよね。これ、どう思う?」



==(中略)=====(中略)=====(中略)=====(中略)==


  詳細は『涼宮ハルヒの憂鬱』(第一巻) P181〜P200参照


==(中略)=====(中略)=====(中略)=====(中略)==



 俺はクラス委員、朝倉涼子に呼び出された。一年五組の教室は幾何学模様の空間と化し俺は殺されそうになった。俺が死ねば『涼宮ハルヒによる大きな情報爆発が起こるはず』という訳の分からない動機で。

 危機一髪のところ俺は長門に命を救われた。長門有希は朝倉涼子を撃退した。朝倉涼子は『それまで、涼宮さんとお幸せに。じゃあね』と言葉を残し、身体は崩れ光る結晶となりそこは小さな砂場となった。ほどなくそれすらもさらに細かく分解され消えてしまった。

 朝倉涼子という女子生徒はこの学校から存在ごと消滅した。


 だが重要なのはこれだけじゃない。長門有希が宇宙人であるということがこの一件で真実であると証明された。〝だが〟ともういっちょ来るが、これを俺が誰かに証言したとして誰も信じることは無いだろう——



 翌日、当然クラスに朝倉涼子の姿は無かった。

 岡部担任が言う。

「あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった。いや、先生も今朝聞いて驚いた。なんでも外国に行くらしく、昨日のうちに出立したそうだ」

 女子どもは騒ぎ立て男子連中もざわざわと顔を見合わせていた。

 もちろん、俺の後ろに座るその女子も黙ってはいなかった。

 俺の背中をシャーペンの尻でつつき、

「キョン、これって事件よね」

 すっかり元気を取り戻した涼宮ハルヒが目を輝かせていた。

 どうする? 本当のことを言うか?

 実は朝倉は情報統合思念体なる正体不明の存在に作られた長門の仲間で、なんか知らんが仲間割れして、その理由が俺を殺すか殺さないかで、なぜ俺かと言うとハルヒの情報がどうのこうので、あげくの果てに長門によって砂に変えられてしまいました、とさ。

 言えるわけねぇ。つーか俺が言いたくない。あれはすべて俺の幻覚だと思っていたいくらいなのだ。

「謎の転校生が来たと思ったら、今度は理由も告げずに転校していく女子まで出た。何かがあると思わない?」

「だから親父の仕事の都合なんだろ」

「そんなありがちな理由じゃ納得できない」

「納得できるもできないも、転校の理由で一番ポピュラーなのはそれだろうよ」

「でもおかしい。いくらなんでも昨日の今日。転勤の辞令から引っ越しまで一日もないって、それどんな仕事なの?」

「娘に知らせてなかったとか……」

「そんなのあるわけない。これは調査しないと」

 俺はただ涼宮ハルヒのあの瞳に見入っていた。

「SOS団として、学校の不思議を座視するわけにはいかないの」

 やめてくれ。

 そうでなくとも、俺はまたまた懸案事項を抱えているんだからな。

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