第18話【宇宙人の事情】

「転校生には親切にね」と言ってハルヒが古泉を伴い部室から出て行ってしまった。俺も行こうと思えば一緒に行けたのかもしれないが、どうもそれも『常にハルヒと一緒にいなければ気が済まない奴』と思われるのも嫌で見送ってしまった。


 古泉か……初対面の朝比奈さん相手にいとも容易く立ち回れたもんだ。

 まああまり考えたくはない。少なくともハルヒが待望した人間だ。俺が積極的に和をぶっ壊すのは止めておきたい。そんなことを考えているうちに、いったいどれほど時間が経っただろうか。

「涼宮さん戻って来そうもないなぁ」と朝比奈さんが呟いた。

 確かにここでいつまでも待ってはいられない。携帯で時刻を確認する。もう帰ってしまっても文句を言われん時間だ。

「もう今日のところはお開きでいいんじゃないですか?」と俺が言うと、

「じゃあ、また明日。さようなら」と朝比奈さんは言い残し部室を去って行った、残されたのは俺と長門有希さんだけとなった。


 俺も帰るか。


「じゃあな」

「本読んだ?」

 足が止まる。長門有希さんの暗闇色をした目が俺を射抜いていた。

 本、というと、いつぞや俺に貸した異様に厚いハードカバーのことか?

「そう」

「いや、まだだけど……返した方がいいか?」

「返さなくていい」

 長門さんのセリフはいつも端的だ。一文節内で収まる。

「今日読んで」

「帰ったらすぐ」

「……解ったよ」そう言うしかなかった。それを聞き遂げると彼女はまた自分の読書に戻った。



 そして俺は今、夕闇の中を必死に自転車をこいでいた。

 あのハードカバーの中に栞が挟んであったとは。栞にはこう書いてあった。

 『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』

 いったい何日の話しだよ。あのハードカバー貸してもらったのは今日じゃねえのに。

 俺が駅前公園に到着したのは七時十分頃。大通りから外れているため、この時間になるとあまり人通りもない。

 電車や車の立てる喧噪を背中で聞きながら俺は自転車を押して公園に入っていく。等間隔で立っている街灯、その下にいくつかかたまって設置されている木製ベンチの一つに、細っこいシルエットがぼんやりと浮かんでいた。

 長門有希さんがいた。制服姿である。


 いくつかのことばのやり取りの後、

「学校で言えないことでも?」と俺は訊いた。

 うなづいて長門有希さんは俺の前に立った。

「こっち」


 俺は長門有希さんに曳かれるように着いていき、今彼女の自宅だというマンションの中のリビングにいた。

 勧められるままお茶を飲み続けていても埒が明かない。

「もうお茶はいいから俺をここまで連れてきた理由を教えてくれないか」

「涼宮ハルヒとわたしは普通の人間じゃない」

「なんとなく普通じゃないのは解るけどさ」

「そうじゃない」

「性格に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、文字通り純粋な意味で、彼女とわたしはあなたのような大多数の人間と同じとは言えない」

「意味が、解らないが」

「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」

「……」



==(中略)=====(中略)=====(中略)=====(中略)==


  詳細は『涼宮ハルヒの憂鬱』(第一巻) P119〜P126参照


==(中略)=====(中略)=====(中略)=====(中略)==



 なんと、長門有希さんはえーとなんだっけ。ナントカ思念体が造ったインターフェースで、つまり早い話しが宇宙人だったのだ。

 で、その宇宙人が何のために地球に来ているのかと言えば涼宮ハルヒを観察して得られた情報をナントカ思念体に報告するためだという。

 で、なんで観察対象が涼宮ハルヒかと言えば情報を爆発させることができるかららしい。

情報の爆発ってのは環境に影響を及ぼすってことらしい。

 むろんこれが真実であることを証明する物的証拠は何一つ無い。


「あのな、そんな話ならチョクでハルヒに言ったほうが喜ばれると思うけどな」

「統合思念体の意識の大部分は、涼宮ハルヒが自分の存在価値と能力を自覚してしまうと予測出来ない危険を生む可能性があると認識している。今はまだ様子を見るべき」

「そういうことなら俺にそんなことを言わない方が良かったんじゃないのか? 俺が聞いたままをハルヒに伝えたらどうする? なんで俺にそんなことを言うんだよ?」

「あなたが彼女に言ったとしても彼女はあなたのもたらした情報を重視したりしない」

 それだけじゃ俺にわざわざ言ってみた理由としては弱すぎる。


 だから俺はもう一度同じことを思った。これが真実であることを証明する物的証拠は無い、と。

 真実かどうか解らんものをハルヒに伝えられるわけがない。下手すりゃ騙してからかっていたことになる。


 だが最後に長門有希さんはとても嫌なことを俺に言った。

「情報統合思念体が地球に置いているインターフェースはわたし一つではない。統合思念体の意識には積極的な動きを起こして情報の変動を観測しようという動きもある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。危機が迫るとしたらまずあなた」


 俺が危機?

 これを伝えるために俺を呼び出したってわけか?

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