第12話【命名SOS団】

「文芸部って何をすればいいんでしょうか?」と朝比奈さんが口にした。

「あー、いきなり入部してくれることになったから言う間も無かったけど、一応文芸部じゃないってことになってるから」ハルヒが言った。

「え?」とまたまたびっくりの朝比奈さん。

「ここの部室は文芸部との話し合いで共用しているようなもので、あなたが入ることになっている部活はそこの涼宮ハルヒさんがこれから作る活動内容未定で名称不明の同好会ですよ」俺が解説をして差し上げた。

「失礼ね」ハルヒが口を尖らせた。

「先に部員だけ集めているようだけど、そこをハッキリさせてくれないと書類が書けない」俺がそれを言うと、う〜ん、とハルヒは腕を組み三秒ほど考え——

「だいじょうぶだから!」と言い切った。

「名前ならたった今考えた」とさらに続けた。

 名前だけかよ、と思ったが口に出して訊いてみた。

「どんな名前?」


 涼宮ハルヒは声高らかに謳いあげるように命名した。


 お知らせしよう。何の紆余曲折もなく単なるハルヒの思いつきにより、新しく発足するクラブの名は今ここに決定した。

 SOS団。

 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。

 略してSOS団である。


 これを俺が書類に書くのか。あの書類って記入者名を書く欄があったよな。どうするんだよ、コレ。

 

 なぜに団かと言うと、本来なら『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの同好会』とすべきなんだろうが、なにしろまだ同好会の体すらたってない上に、何をする集団なのかも解らないのである。『それだったら、団でいいじゃない』という意味不明なハルヒのヒトコトによりめでたくそのように決まった。

 朝比奈さんも長門有希さんも何も言わない。

 俺は否定したいところだがしかし否定したらしたで代案を示すよう求められるのだ。なにも言えない。

 かくして『SOS団』はめでたく発足の運びとなった。


 もはや走り続けるしかない。



 ある日のハルヒと俺の会話。

「ねえキョン、あと必要なのは何だと思う?」

「五番目の入部者だろうな」

「そこは当たり前でしょ。問題は誰を五番目にするかということ」

「まだ選ぶつもりなのか?」

「選びたいと思わない?」

 こっちは名門の野球部でもサッカー部でもバスケ部でもない。こちら側に選ぶ権利があるとは思えない。

 しかし一応訊いておこう。

「どういうのを相応しいと考えてるんだ?」

「やっぱり謎の転校生は押さえておきたいよね」

「……それは古典的名著か何かだったよな?」

「新年度が始まって二ヶ月も経ってないのに、そんな時期に転校してくるヤツは充分謎の資格があると思うでしょ?」

「親父が急な転勤になったとかじゃないのか?」

「不自然よそんなのは」

 不自然ね。

「来ないもんかしらね、謎の転校生」

「ちょっと待ってくれ」

「なに?」

「〝来ないもんかしら〟と言ったってことはまだ来ていないってことじゃないか。もし誰も転校してこなかったらこの部活は四人のまま。書類審査以前の問題になるぞ」

 しかしハルヒは俺のもっともすぎる懸念に何の反応も示してくれなかった。どこまで普通の人間を忌避し続けるのか。こんなことをしていたら五人集まる前に高校生活の方が終わってしまいそうだ。


 だが噂というものは流れるものだ。

 谷口に親切な警告を受けてしまった。

「お前さあ、涼宮と何やってんの? ほどほどにしとけよ。中学じゃないんだ。グラウンドを使い物に出来なくなるようなことしたら悪けりゃ停学くらいにはなるぜ」

 そうかぁ、もう広まっているんだなぁ。

 大々的に部員募集をかけているわけではないのに、活動らしい活動を何一つしてもいないのに、もう既にハルヒと俺が何かを企てているということにされていた。

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