第13話

 梅宮が場を制すると、マーチングバンドの間から黒子のような職員が現れて、計十三席のパイプ椅子が、ステージに向かってアーチ状になる形で並べられた。さすがに梅宮に逆らうことはできないのか、ミカたんや百足も大人しくなっているようだ。みな促されるままに着席していく。

 僕は右端にある席に座り、さりげなく左手の様子を伺う。どうやら、さっきまでの騒動に乗じて何人かの新入生が来ていたみたいだ。しかし、いまだに三つの空席があることは確認した。

 現在集まっているのは──僕こと鬼怒川凡斗に、物騒な車椅子の使い手である九文字眠子。そして群衆を操る百足、幼女にしか見えないのに人外の力を持つ死ノ塚魅禍。僕が知っているのは今のところ四人か。

 そして男女が二人ずつに、性別どころか姿形がまったくわからないやつが一人で、計九人だ。度々名前の出た姫乃薔薇有栖とかいう盗聴趣味の女の子は、多分名前的にあのゴスロリっぽい服を着た子だろう。いや、絶対そうだ。もう一人の女子は、なんというか存在感が皆無と言っていい。可愛いとか綺麗とかブサイクとか、どう形容したらいいかわからない。

 男子の方は、ちょっと高校生には見えないラグビー選手みたいな巨体のやつが一人と、百足に勝るとも劣らない、少し外国人風で彫りが深い長髪のイケメンが一人。

 そして……なんだあれは? 僕の持てる語彙では、「カラスに荒らされたあとのゴミ袋」としか言いようがない。でも椅子に座ってるし、動いてもいる。隣に座っている百足の表情が歪んでいるから、多分本当に臭いのだろう。

 残る三つの空席を眺めていると、「全員、起立!」という勢いのいい声が館内に響き渡った。梅宮がついに口を開いたのだ。

 言われた通り立ち上がって、壇上の梅宮を見やる。途端、数時間前に見たアリサさんの下半身がフラッシュバックして前屈みになりかけるが、耐えた。

「どうやら、全員集まっているようだな。随分と待たせたが、これより、抜身学園の入学式を正式に始めることとしよう」

 全員……? もう一度左へ視線をやるが、確かに空席は三つある。梅宮のやつ、ボケたのか? 

 ──ともあれ、どうやら始まってしまうらしい。僕の高校生活が。ここが本当に「高等学校」なのか、今の僕には疑問としか言えないんだけど……。

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