継承

「式口ナツは祖母にあたります」

 その言葉を聞いた鉄治はぽかんと開けた口を一文字に結び、そして目を瞑った。

 目を開けると鉄治は懐から紙切れを取り出し、机越しの咲に渡した。

 その紙切れはどの紙切れよりも黄ばんでボロボロになっていた。

 ナツこと環奈のカミングアウトからの一連の動作は十秒にも満たなかったが、それは長い十秒だった。

 遥か昔から今この瞬間までを一瞬で駆け抜けたような気分にさせられる。

「ナツとノブとの約束だ。いつの日か、これを探す子孫が現れたら渡してやるってな。お前さんがナツ本人だったら、これは絶対に渡さなかった。ましてやナツの事を嗅ぎまわる人間なら尚更な」

 ぽつりと言った一言から過去を懐かしむ寂しさが滲み出ていた。

 鉄治の口ぶりは妙で、まるで同年代の式口ナツが隣に座る環奈であっても不思議ではないとでも言うかのようだった。

 ここにも何か事情があるのだろうか。

「環奈とか言ったな。本当にそっくりだからよ、初めてその面を見た時は驚いたもんさ」

 初めてここにやって来た時の事を思い出す。

 確かに鉄治は環奈をナツと勘違いした節があった。

 照れくさそうに頭を掻いた鉄治はそれからこちらを見た。

 どこかすっきりとした顔をしている。

「ノブの事は残念だったな。葬式でお前さんを見かけたんだがな」

 なんと。

「まあ声なんざ掛けないわな。ダチの孫だ。こんな爺に話し掛けられても嬉しかないだろ」

 そう言われたら、苦笑せざるを得ない。

 もし話しかけられでもしたら、何を話して良いか分からなくて逃げ出していたに違いない。

「それよりナツはどうした」

 親友の一人が他界しているのだ。

 もう一人の今が気になるのはよく分かる。

 聞かれるのが分かっていたのか、環奈がスマホを取り出して操作をした後にそれを鉄治に渡した。

 画像を見ると、鉄治は眉間に皺を寄せた。

 それから無言でスマホを返すと腕を組み、長く息を吐いていた。

 気になって思わず前のめりになると環奈がスマホを渡してくれた。

 画像には同じ顔の人間が三人写っている。

 合成でもしたんじゃないかと思わせるくらいに三人はよく似通っている。

「見せて」

 久しぶりに咲が口を開き、スマホを覗き込む。

「お姉さん?」

 そっくりだねとでも言うように咲が言うと環奈が首を横に振った。

 鉄治もそれに合わせて唸る。

「知っているんですね」

 環奈の一言に鉄治が重く頷く。

「まあな」

 空気が静まり返った。

 宝探しをする上で重要な話があった。

 紙切れだってゲットした。

 ただ、これ以上はダメだ。

 この先の話を聞いてはいけない。

 聞きたくもないような話が出てきそうだ。

 そんな予感がした。

「これを撮ったのは今年の頭。写っているのは私と母。そして祖母です」

 写真には姉妹のように似通った顔が三つある。

 何を言っているのか理解できなかった。

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