宝探し

 何かしたいと思って始めた宝探しがいつの間にか壮大な話になっていた。

 このまま軽い気持ちで宝探しを続けて良いのか。

 そんな問いを内なる自分が発している。

 人様の身内に多大な傷を負わせるかもしれない。

 そのリスクがある事を知ってしまうと、安易に答を出す事が出来なかった。

 言葉を発するのが躊躇われたのは咲も同じようで今は神妙な面持ちで前を向いている。

 ナツは語るべき言葉を尽くして皆の反応を待っている。

 鉄治に至っては眠ったように目を瞑っていた。

 くっくっく。

 喉を鳴らす音が聞こえると、鉄治が笑顔を浮かべた。

「そうか。あのナツがボケちまったか」

 あっけらかんと鉄治が放った一言が場に命を吹き込んでいく。

 自分で言った言葉にウケたのか、あるいは長い間ずっと連絡が取れなかった友人の近況を知る事が出来て嬉しかったのか、愉快そうな顔でそうかそうかと独り言を呟いている。

「納得しちゃダメでしょ。どうにかしないと」

 対照的に咲は感情を振り回して言った。

「どうにもならんよ。分かっていた事だ。あの日からこうなる事は分かっていた。本人が言ってたんだしな」

「おじい!」

「それよりもだ」

 ぱんと両手を勢いよく叩いて強引に流れを持っていく。

「お前さん方、どうするんだ」

 俺は何も出来なかったぞ。

 ガキのお前に何が出来るんだ。

 そう言っているような気にさせられる一言だった。

「き…きっと。きっと! 何か手があるから」

 試すような言葉に咲は言葉を詰まらせるが、それでも自分を鼓舞して言い切る。

「その間にナツはくたばるぜ。命賭けたっていい」

 断言する鉄治に咲が怯む。

「そもそもだ。お前達のする事は変わるのか?」

 自分に相対する三人に向かって鉄治が問い掛けた。

「ナツに何かしてやりたいのなら、宝を探す以外に何があるんだってんだ」

 どうするという問いに自ら回答を提示する鉄治の姿を見て、咲がはっとしたように姿勢を正した。

 気が付くと自分も背筋が伸びている。

 場の空気が変わった。

「環奈ちゃんと一緒に宝を見つける。それをナツに見せる。それが、それだけがナツの望みのはずだ。学者さんがどれだけ手を尽くしてダメなら今の俺達には何も出来んよ。だったら別な方向からナツに向き合ってやんな。環奈ちゃん、お前さんがここに来たのは正解だよ。隣にあの日を彷彿とさせるメンツが揃ってんだからな」

 真っ直ぐに環奈を見つめて言う鉄治。

 その眼差しはとっくに通り過ぎた青春時代の自分達を見るように眩しそうで、同時にこれからどれだけの事をしてくれるのかと期待しているようだった。

「はい」

 視線に応えるように環奈は頷き、はっきりと返事をした。

 美味しい所の全てを鉄治が持っていったが、最後の紙切れと共に行くべき道筋をしっかりと示してくれた。

 これから本当の宝探しが始まる。

 そんな予感がした。

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