憂鬱

「あの子らはどうしたんだい」

 ナツが復活した所で解散となったため、ナツも咲も祖母の家には寄らなかった。

「まあ。色々あって」

 家に帰るとパン、サラダ、から揚げを始めとする揚げ物各種がテーブルの上で食べられるのを待っていた。

「何だい。折角、腕によりを掛けたっていうのに」

 聞けば、更にうどんを打ち、グラタンまで焼いていると言う。

「大丈夫。食べるよ」

 グラタンが焼けるのを待ってから三人で夕食となった。

 明日は来るんだろうね。

 嫁にするなら船坂の孫娘にしな。

 そんな祖母の言葉をいなしながら、千誉の目配せが気になった。

 帰りの道中の時からそうだった。

 何か話し掛けようとして止める。

 意味深な視線をこちらに向ける。

 ナツと鉄治のやり取りが気になってしょうがないのだろう。

 誰だってそうだ。

 用件は分かっているが、だからと言ってこちらから話を振ってやるほど兄貴として出来が良い訳ではない。

 聞かれたからと言って、答えられる事なんて何もない。

 何かを聞かれたとして、どう答えろというのだ。

 どうしたって推測の話にしかならない。

 それを口にするのは失礼だ。

 だからと言って、気になるものは気になるのが人間の性というもの。

 当人に話を聞くと結論を付けた今だって様々な憶測が脳内を駆け巡っている。

 その憶測が更に憶測を呼びこむ。

 おかげで風呂に入っている時も千誉の宿題の面倒を見ている時もずっともやもやしっぱなしだった。

 もやもやが伝播しているのか、宿題を進める千誉の手がよく止まる。

 こちらをじっと見て、反応がない事を確認してから問題を解くが、すぐに手を止めてこちらを見る。

 その様子を見ている内にイライラが募る。

 頭が痛くなってきた。

「宝探しはきっと終わる。その時は一緒に宝を掘り起こそう」

 何か言わないとお互いに良くないと思って口にした言葉がこれだった。

 こんな事を言うつもりはなかった。

 誤魔化すつもりもなかった。

 それでもこういう言い方になってしまったのは例の話題に触れてくれるなと切に願っているからに他ならない。

 度量の狭さに辟易する。

 千誉はうんとだけ答えた。

 彼女なりに何かを察したのだろう。

 その姿を見て、いよいよ我慢ならなくなった。

 立ち上がる。

「先に寝るわ」

 この選択肢を取ってしまう自分に更に嫌気が指す。

 不甲斐ない。

「どっちでも良かったんだろうな」

 溜息と共にそんな言葉が零れた。

 話をさせてスッキリさせても良い。

 じっと隣に座っているだけでも良い。

 行動を起こしさえすれば何だって良かった。

 そうすればこんな自傷行為のような惨めさを感じる事もなかった。

 窓ガラスや天井に何かが打ちつける音か聞こえ始めた。

 音の正体は分かっているのに、それが言語化される前に意識が遠のいて行った。


 雨粒が窓にぶつかる音で目が覚めた。

 もやもやは胸の辺りで停滞している。

 黒く低い空が気分を余計に重くする。

 色んな意味で出かける気になれない。

 仕方なく残っている宿題を片付けた。

 酷くつまらない、憂鬱な一日だった。

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