新たな仲間
家に帰ると、祖母がナツや咲の分の昼食も作っていた。
「よろしいんですか」
「あざーっす」
異なる反応を示した二人に対して大勢で食べた方が美味いんだよいつもの調子で返した祖母は淡々と親子丼を作る。
米が食べたいという要望が叶えられて嬉しい限りである。
断る祖母を余所に何かお手伝いさせて下さいと言ってナツが半ば強引に手伝いを始め、咲がごろごろとテレビを見る千誉に構う。
無駄に活発という自分にはない要素を持つ咲にすっかり懐いた千誉が実家から持ってきていたトランプを持ち出してババ抜きをしようと言い出した。
「二人でやってどうすんだよ」
「そりゃあ、あんちゃんも混ざって三人でやるからに決まってるでしょ」
「そうだよあんちゃん」
普段はお兄ちゃんと言う千誉が影響を受け始めている。
仕方なくババ抜きをしていると、途中でナツが帰って来た。
「…邪魔だと言われまして」
ナツの後ろで祖母は無言で作業を続けている。
「あれは照れ隠し」
申し訳なさそうに言うナツに祖母の性格を教えてやる。
「基。余計な事を言うんじゃないよ」
出汁の良い匂いが漂ってきた台所から祖母の声が聞こえた。
「ほら」
そう言ってやるとナツが苦笑した。
数回ババ抜きをすると炊飯器から懐かしいメロディが流れた。
「出来るよ」
合図に従い、ババ抜きを中断してテーブルを茶の間に出すために台所に顔を出すと、祖母は鍋に溶き玉子を回し入れていた。
「基。あの元気なのは」
「と言うと?」
「名前だよ」
「船坂咲とか言ってたっけ」
「船坂…もしかして宿の孫娘かい」
「そうみたい」
「宝探しは順調かい」
「ぼちぼち」
珍しく、祖母が宝探しについて聞いてきた。
「さっきまで何をしてた」
と思ったら急に話題が変わった。
こうやって急に話題が変わると困惑してしまうが、孫から色んな話を聞きたがるのが老人の趣味なのだと言っていたのは確か両親だったか。
祖母孝行と思って付き合ってやろう。
「下の畑に行って花を見たりしてたよ。川にも行って来たし」
「そうかい。なら良いんだよ。丼を取ってもらおうかね」
炊飯器の蓋を開けてしゃもじで白米をかき混ぜる祖母に丼を渡し、テーブルを運び出す。
箸を取りに台所に入るや否や人数分の丼が載った盆を無言で渡される。
「出来たぞ」
言いながら踵を返すと咲の歓声が上がり、千誉がそれを真似した。
ナツはナツで静かに、それでいて嬉しそうに両手を合わせている。
「基も千誉ももう少し元気があれば良いんだけどね。昔は良かったよ。お祖母ちゃん遊んでってよく言ったもんだよ」
むしろうるさいくらいの咲であったが、祖母にはこれくらい賑やかな方が好みのようだった。
あと。自分の知らない幼少期の事を話すのは恥ずかしいので止めてもらえませんかね。
「いただきまーす」
「おかわりしなよ」
咲の威勢の良い言葉に祖母が眉尻を下げて言った。
「ところであんた達、昼からはどうすんだい」
そう言われた所でノープランである。
「ずっと畑にいるのもなんだし、遊ぶんなら千代も混ぜてやっておくれ」
きょとんとする千誉を余所に祖母が言った。
「もちろん」
おかわりを要求しながら咲が二つ返事で言った。
自分のあずかり知らぬ所で自分の予定が決まって行く様子をきょとんとして見守っていた千誉は午後からは咲やナツと一緒にいられるのだという事が分かると、途端に目を輝かせて喜んだ。
「千誉ちゃんは何したい?」
「んー。何でも」
「よし。じゃあ釣りしよう」
「宝探しはどうすんだよ」
「まあまあ。手掛かりはテツ…咲さんのお祖父さんが持っているのだから今日は急がなくても」
そう言われ、鉄治の様子を思い出す。
現状ではこれ以上どうする事も出来そうにない事を思い出すと、まあ良いかという気になる。
「また釣りすんのか」
「釣りしてみたい」
農業に漁業と千誉は今時の小学生にはない物を好むようだった。
もうすぐ中学生になると言うのに、妹の好奇心はその純粋さを失っていない。
これからどんどん擦れて行くのだと思うと背筋が凍るような気分になるが、それが世間一般に言う所の成長というものなのだから仕方がない。
何釣れるの?
よく分かんない川魚が連れるよ。
そんな会話を聞きつつ、親子丼を食べ終えると洗い物を祖母が買って出た。
「手伝います」
ナツが今度こそやってやるという意気込みが見えるくらいに強く言うと強引に台所に入って行き、祖母と共に洗い物を始めた。
「そう言えば千誉のチャリがないな」
食後の腹ごなしは自転車の整備になりそうだ。
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