ナツという少女について
寝る前に少しだけ考えた。
遠藤信人。
式口ナツ。
二人が紙切れを持っていたというのなら船坂鉄治の手にも紙切れがあっておかしくない。
そこまではさっきも考えた。
しかしながら、咲は紙切れの事は何も知らないみたいだ。
可能性として、紙切れは鉄治か、あるいは咲の両親が持っているか、あるいは船坂家には存在していないの三択がある事になる。
これまでに手に入れた紙切れが紙切れの断片に繋がっていた。
謎の文章は決まって三節。
もう一枚、紙切れの断片が手に入れば断片同士を合わせて更なる謎が得られるはず。
それを辿れば宝物に辿り着けるだろうか。
宿題を入れていたクリアファイルを取り出す。
色褪せたり、まだ綺麗なままだったりする紙切れを見つめる。
どの道、鉄治と話す必要がある。
お前、もしかしてナツか。
旅館ふなさかで鉄治が口走った一言が頭から離れない。
どれだけボケたらナツを式口ナツと間違えられるのだろう。
鉄治と話してまともに会話が出来るか不安になってきた。
「貸して」
昼の一件で妹が宝探しに興味を持ってしまったようで、紙切れを見せるように要求してくる。
ここで貸さないと面倒な口喧嘩になりそうで、素直にクリアファイルを渡してやる。
「何か分かった?」
「何かって何だよ」
紙切れの謎を解いたら紙切れが出てきたなんて言ったって納得しないだろう。
「だから何か」
寝室として用意された部屋に妹と二人きりなのか、千誉は年相応に生意気な事をほざきながら目を輝かせて紙切れを眺めている。
「何かはないな」
意地悪をしているつもりはないが、こういう言い方しか出来ない。
「つまんないの」
すぐに面白味のない紙切れを眺める事に飽きてクリアファイルを投げて返してきた。
「投げるな」
辛うじてクリアファイルをキャッチする。
「山分けね」
「山分けするほどの物が出てきたら良いけどな」
改めて紙切れを見る。
自分の事をナツと呼ぶように求めた彼女。
聞けなかったが、彼女の事も気になる。
いつの間にか妹が寝息を立てていたので、電気を消して自分も布団に潜り込む。
目を瞑ると、ナツの姿が現れた。
同年代の女子高生は絶対にしないような言動。
服装だって、今風のデザインではない。
ある種、男受けしそうな外見ではあるが、あれが全てではないだろう。
真っ白なワンピースを汚しながら瓶を取り出すあの姿にこそ本質があるのではないか。
執念にも似た何かを湛えながら必死にシャベルを振り回すナツ。
あの姿を見た時、止めなければと思いつつも動けなかった。
彼女はなぜ宝探しをしているのか。
何かしたい、と思ったからではないだろう。
彼女が追い求める宝とはどういった物なのか。
値打ちのあるような物だったら嫌だ。
必死に宝を探した結果、出てきた物が金目の物だったらと思うとナツの印象ががらりと変わってしまう。
この夏を汚してくれるなという願望が、そう思わせるのは分かっている。
それでも思わずにはいられない。
煌めく金色ではく、鮮やかな緑色のような物こそが彼女の求める宝であると。
おかしな例えをしたと思う頃には意識が曖昧になっていた。
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