第4話聞きたいこと~翼~
考えるより先に身体が動いてしまった。迷惑だったかもしれない。
なんか格好つけちゃったけど……。
「あーあ……」
ベッドに仰向けになり、翼は意味もなく声を出す。雑念を吹き飛ばすように。
あーあ……。
「聞きたいことかー」
聞きたいこと。翼が美空に聞きたいこと。
なぜあんな場所に独りでいたのか。あの丘の上で何をしていたのか。そして、なぜそこから落ちたのか。
翼が聞きたいことは美空の不可解な行動の真実。ただそれだけだ。
「あ……そういえば」
翼はつぶやいて、ゆっくりと身体を起こした。
「怪我とかしてないよな」
多少小高い程度の丘だったが、そこから落ちたのなら怪我のひとつぐらいあってもおかしくない。というより、普通ならかなりの重体になるはずだ。
高いところから落ちても平気なんて、猫じゃあるまいし。
落ちた直後は腰かどこかを痛めていたようだが、今日見たところではそれももう治ったようだった。
美空の身体がよっぽど丈夫ということだろうか。それとも。
「……飛ぶ」
それともわざと。
美空が故意に飛び降りたのだとしたら。
自殺?……違う。
美空は自分が怪我をしない高さを選んで「飛んだ」。
彼女は人間の枠を超えようとしていた。最初に受けた印象だ。まだ拭いきれずに翼の中に残っている。どこか夢見心地で、翼には見えていない別の風景を映していたかのような瞳。彼女は自分の背負う世界から逃れようとしているように見えた。
誰にも知られず。たった独りで。
誰かに知られたら、とたんにそれまで彼女が作り上げてきた何かが壊れてしまう。だから誰も本当の自分には寄せ付けない。決して、近づけない。
どうして君は独りを選ぶ?
救いを求めることをしない。全てを隠し通そうとする。
だったら俺はそれを壊したりはしない。
美空が知られたくないのなら、たった一人それを知っている翼は彼女の望み通り秘密を守るしかない。誰にも話さない。詮索もしない。
翼は心に決めた。色鮮やかな春の夢は忘れよう。あれは全てはかない幻だった。
「どうして」
細く長く息を吐く。
なぜ。
こんなにも彼女を守りたいと思うのだろう。
よく知りもしない少女に目を奪われて、盲目になっている。
『嫌な人間じゃない。私、氷川くんのことそんな風に思ってない』
じゃあ一体、どんな風に思ってる?
頑なに翼の言葉を訂正した生真面目な彼女の、今にも泣きそうな瞳が忘れられない。
そして自分は孤独な彼女に何を期待しているのだろう?
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