第1話転校生~空~
「
突然声をかけられて、
「始業式からそんな顔してちゃ、これから先どうすんのさ。明るくいこーぜ。夏目ちゃんスマイルー」
近野
「スマイル」
とつぶやき、美空が微笑んだ。形のいい唇をキュッと細くし、青みがかった瞳に光をにじませて、それから頬にすっと赤みが差す。
近野が溜息をついた。
「う、わ。破壊力半端ねー。マジ天使」
目をきょとんとさせて美空は小首を傾げる。片方の肩を少しだけ上げると、ポニーテールにした髪がさらっとこぼれた。
「だから、ホントやめてー。ウチが笑えって言ったんだけどさ、うん。でも夏目ちゃんの目、メデューサだから。そんな目で見られたら、女だって固まっちゃうから」
「え……?私、メデューサなの?」
まるで歌うように滑らかな声で美空が言った。苦笑する近野。
「ち・が・う・よ」
するとくすくすっという笑い声が聞こえてきた。前の席から
「美空ちゃんは可愛いから、微笑みかけられたら男女関わらず心臓止まっちゃうと思うな。あとその天然なとこもね」
「ちょっと安達!思わせ振りな発言禁止!あんたレベルじゃ夏目ちゃんは絶対獲得できませーん」
「そんなのわかってるよ。美空ちゃんは完全に高根の花だよ。毎日会えるだけで十分」
「だからさりげなくアピんなっつーの」
近野に異常なほど突っかかられた安達
「えー、だって俺、美空ちゃんのこと好きだし」
「あんたうざい」
不機嫌そうに近野は横を向いてしまった。安達は笑いをこらえながら、
「あー俺、嫌われた?」
と美空の方に視線を向ける。
美空は戸惑いがちに微笑む。
「私は安達くんのこと嫌ってないけど……」
「よかったー。俺はいつでも美空ちゃんのこと好きだからね」
「女ったらし。キザ野郎。鈍感バカ。ってかキモッ」
近野がぶつぶつと悪態をつく。対して安達は涼しい顔だ。余裕の表情で別の話題に移る。
「そーえば、転校生来るんだって、このクラス」
とたんに近野の目の色が変わり、さっきまでの不機嫌な表情が消えた。
「えっ!男子?女子?」
「食いついてくるねー、マミ。男だってさ。名前はなんてったかなー」
「ほらほら思い出せ。全力で思い出しなさい」
近野に急かされながら、安達は少し考えるような仕草をし、
「あっ、たしかツバサ。ヒカワツバサって名前だよ」
と言った。
「ツバサ……」
美空は放心したようにつぶやいた。誰も聞き取れないほどの小声だった。そのため近野も安達も、美空が不安そうに手を胸元に当てて呼吸を整えていることには気づかなかった。
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