第8話 地獄の先住民と死の天使
私は月島楓。
今馬車に乗り移動中だ。
3、4時間前に斬り落とされた右足首は傷が塞がり小さい足みたいなのが先っぽから生えてきている、なんかすごくキモイ。
「おーい! 戦士諸君! 大丈夫か?」
「何がですかー?」
呑気な声で聞いてくる。
「眠たいんなら寝ててもいいのよ」
「ああ、眠気ならありませんよ、訓練されてますからね、私達は」
「へー、意外と凄いんだな」
「戦士ですからね」
私達は壁越しに話し合う。
「今窓から外の景色見てるんですけどぉ、もう夜明けって感じですね」
「ええ、夜明けね、もう少しで。もう少しであんた達ともお別れよ」
「どういう事です?」
馬車の運転席に座る私にしか見えないが正面には小さく地獄の壁が見えてきているそしてその事を少女達に話す。
「壁とはなんですか?」
「人間が1度入れば出る事が出来ないようにする為の壁よ、まあ天国に行けるとなったら別の所から行けるんだけどね」
「へえ〜」
何て呑気に話し合うテロリストと死神に仕える天使、よくよく考えると何かカッコいいかも知れない組み合わせだ。ヴァニラとミントみたいな。
「そうだ、あんた達今も神様信じてんの?」
「……」
無言。
「別にただの質問よ、良くあるでしょ?「貴方は神を信じるか否か」あんた達が信じようと信じまいとあんた達の印象は変わらないわ」
「…………あなたは…月島さんはどうなんですか?」
「私は信じてるわよ、私の上司だもの、信仰はしないがね」
「……でしょ、私はあなたと同じように信じてます」
「はあ? 神を見た事あんの?」
「勿論、そうでないと信じませんわ」
良くわからない事を言ってくる。
あれか? 現人神ってやつか? まあカルト宗教ならそんなもんか。
まあこれ以上質問して感じが悪くなるのも嫌なので話を止める。
「そうだ、私の上司の話したげようか?」
何て別の話を切り出そうとすると前に黒い物が見えた。
「あんた達! 何かに掴まりなさい!」
私はそう言い馬を方向転換させようとする。
あの黒い影、間違いないさそりだ。
馬はさそりから右にそれていく。
さそりの眼光を感じる、見られてる。
馬を右に右にとそらして移動させる。
カチリ、金属音がしたと思うとさそりから尖ったものがこっちに伸びてくる、その速度は音速を軽々超えていた。
バサ、馬の頭が宙を舞う。
さそりによって2頭の内1頭が殺された。
馬の死体が馬車のタイヤに引っかかり馬車は回転する。
ドガ、と回転の次は横転。
私は地面に叩きつけられる。
目の前がくらくらだ。
視界がぼやける。
そのぼやけた視界に捉えたのは少し離れた横転してカゴの入り口が上になった馬車に向かうさそりの姿だった。
さそりというのはこの道に古来より住む大型犬ほどの大きさの蠍だ。肉食でどう猛、主に馬の肉を食べる。人に危害を加える事は少ないと言うが……。
馬車の窓からからマズルフラッシュが光る。
バン、ショットガンの銃声だ。
「やっちゃったか……」
人に危害を加えるのは少ないと言うが人から危害をアレに加えると稀に人を殺害するらしい。
ゴム製のショットガンは危害に入るのだろうか?
「ギャイイイイイイイイイイイ‼︎‼︎」
……まあ怒らないわけないか。
私は走り出しさそりに向かう。
走ると言っても右足が使えないので片足飛びで移動する。
さそりは馬車のカゴに向かいガンガン尻尾で攻撃している。
カーボン製か何かのカゴがひしゃげてくる。
「月島サァーン! 助けて下さいー‼︎‼︎」
「戦士諸君‼︎ そのままショットガン撃ちまくってそいつの気を引いててくれ!」
「え!?」
横転した馬車の周辺に日本刀があるはず!
日本刀があれば奴をスライスに出来る。
「た、助けてくれないんですか?」
「違う!助ける!私を信じろ! とにかく撃て、撃ちまくれ!」
「わ、わかりました!!」
流石、戦士と自称するだけあり理解が早い。
さそりは少女達に夢中でこちらに気がついていない。
私は横転した馬車の付近に着く。
私の乗っていた所からして馬の死体の近くにあるはず……そう思い私は馬の死体の近くに片足飛びで移動。
「あった」
日本刀を見つけた……が馬車に挟まっている。
「……クソ……」
ガン! ガキャッ‼︎ 馬車の破壊音が変わる。
「もう持ちそうにありませぇぇん‼︎」
少女の声を聞き私は日本刀を持ち、折る。
日本刀は折れて短刀のサイズになる。
だがアレを倒すのには充分。
私はさそりに飛び向かう。
ストン。
奴の背中に着地。
さそりは背中の私に気づいたのか左右に尻尾を振るわせる。
馬鹿が、左右じゃお前の背中には届かないよ。
私は短刀と化した日本刀をさそりの首元に添えて右手を離し力を込めながら拳を振り下ろす。
ドッ、そういう音がした。
短刀は蠍の首元に釘のように叩き刺される。
さそりは急に動かなくなり息の根を止める。
死んだのだ。
ギィイイ。カゴの扉は歪んで重たくなっていた。
「戦士諸君……怪我してないか?」
私は援護をしてくれた戦士達に聞く。
「馬車が転んだ時についたモノだけです」
「そうか、安心した。出るわよここ、地獄までは徒歩で行きましょう」
それを聞き少女達は露骨に不安な顔をする。やはり少女は少女だ。
少女達を上の出口まで引っ張り上げて外に下ろす。
5人ちゃんと無事だ。
「馬、死んじゃったんですね」
少女達は馬の死体を見ていた。
「そうね、この道では良くある事よ」
「あ、もう1頭は息がありますよ」
「転んでるんだから身体中、骨折だの内出血だのしてるわ」
そう少女達に言うと私はさそりから日本刀を抜いて来る。
「え?」
「殺してやるのよ、動けない馬は死ぬだけよ。古今東西それは同じだわ」
「それは……」
馬は苦しそうに瞳を潤わせている。
可哀想。
「ここが地獄の道じゃなきゃペットにしてあげるんだけどね」
短刀を振り上げる、力いっぱいに。
そして馬の頭に向かい、刺す。
馬は止まった。
脳幹を刺した、即死だ。
刺されたと、痛みを感じる間も無いだろう
短刀を抜く。
「……」
「行くわよ、地獄へ」
数10キロ先に見える地獄へと歩き出す私達。
少女達は暗い顔をしていた。
「あの」
「何?」
「私はイイと思いますよ、さっきの行為」
「うん、私も……そう思う……です」
「私もです」
なんかみんなが私のさっきした事を褒めてくれている。
「当然の事よ、腐っても私は死神の天使だからね死にかけに引導を渡すのも仕事なのさ」
私はそう言って少女達を先導する。
少女達は哀れみと尊敬を混ぜたような不思議な表情で私を見ていた。
続く。
The Dead Angel 炉夜牛029 @royausi
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