第7話 サムライ、斬られる。

 私の名前は月島楓。

 今、右足首をサムライに切断された。

 まだ一瞬の事だ。時間に起こすと1秒の何十分の1とかしか斬られてから立っていないだろう。

 だからまだ血も出てないだろうし痛みも感じない。


 サムライの動きがスローモーションに見える。

 敵ながら天晴れな美しい形だ。

 しかしその形は対人間用のモノ、天使である私に作られたもんじゃない。

 それが隙を生み出す、敵に攻撃するチャンスは今だ!


 私は先程までショットガンだったものを振り上げる。

 私の体は今サムライの真上にある。

 これで頭をブン殴ればこの防御力極振りサムライも戦闘不能の瀕死状態になるはずだ。


 ……痛い、感じて来た。

 熱い、斬られた右足首が過熱された鉄板に押し付けられたみたいだ!

 しかし、痛みはこの状況にとっては好都合、と私の頭の中の理性が痛覚に比べて凄まじい程の小声で語る。

 何が好都合かって?

 それはこの道で人を殺しちゃダメなんて仕事をほっぽり出してこのクソサムライを全力で、殺す勢いで殴りにイケるからだ。


 私の上半身は反る。

 サムライはそれを危機が迫っていると感じたのか防御の形をとろうとする。

 だが遅い。もうのは終わったからだ。

 私はサムライの頭をめがけてショットガンだったものを私の持てる全ての筋力を効果的に使いできるだけ重く、出来るだけ疾く振り下ろす‼︎


 ブシュッ、サムライの血が飛び散る。

 気づくと時間の流れが元に戻っていた。

 私は右足をかばい左足だけで着地した。


 全力で振り下ろしたショットガンだったものはひしゃげている。

 サムライの流血は頭からだった。

 日本刀を落とし頭を両手で抑え頭の痛みに耐えているサムライ。

 ホントに硬い奴だ。

 私はサムライの落とした日本刀を取る。


「サムライの……魂を落とすとは武士の恥だねェッ!」


 私は日本刀を雑な形で振りかぶる。

 ふらふらの敵に必要な形なんてない。

 ただ振り下ろせば切れるモノは切れる。

 ザスッ、と気持ちいい音が刀身を伝い私の骨に響く。


 日本刀で奴の右肩を切断した。

 右足首のお返しだ。

 サムライはあまりの痛みに地面を転がり血を撒き散らしながら悲鳴をあげる。

 その姿はまるで私の飼っていたハムスターが病気に侵された時のようで心が痛んだ。

 ここが地獄への道じゃ無ければトドメを刺し、楽にしてやる所だが生憎ここではそうは出来ない。


「仲間がいたら伝えなさい、テロリストを狙うならあんたみたいに四肢に危険が及ぶって事をね」


 捨て台詞を吐き私は日本刀を杖代わりにして馬車のカゴに向かう。



 カゴに着くと少女達は恐怖に顔を引きづらせていた。


「私は大丈夫だ、これから馬を走らせる」

「あの! その刀は何なんですか?」

「敵が持ってたのを奪った、試し斬りしたけど紙を切るように切れる」

「…………あの、その足……切れてませんか?」


 血がドバドバ出ている右足首を指差す少女。


「天使の私にとっては軽傷の範囲内だ、案ずるな戦士諸君」


 私は少女達を安心させるため笑みを浮かべる。

 すると少女達は苦笑いをする。

 私は少女達に水とスナック菓子を渡して貰い馬車の運転席に座る。


 これから治療だ。

 大丈夫、大学でこういう事態に陥った時の対処法を学んでいる。

 ショットガンのストックを噛む、痛みで舌を噛み切ったりしないためだ。

 ペットボトルの水を傷にかける。

 消毒液、買っときゃ良かった。

 まあそんなにしみないぶんましだ、まあこんなに冷える場所で傷口に水を掛ける

 なんて2次被害凍傷を起こす可能性が高まるんだが。


 キュッと筋肉が収縮し脳に痛いと信号を送る、言われなくてもそんなのわかってる。

 バキッと、痛みで噛みショットガンのストックにヒビが入る。

 続いて回復薬品、ポーションを足首にかける。

 ドロリとした水色の液体が足首を包み込む。

 ポーションは血を含み紫色になる。


「これで本当にほっときゃ足が生えてくるのか?」


 大学で習ったことに疑問を覚えるがやるだけの事はやった。

 足が生えてこなくともポーションの痛み止め効果でこの焼けるような痛みはマシになるはずだ。


 深呼吸をする。


 さあ、行こう、ここは敵に知られてる危険性がある。

 馬を鞭で叩き起こす。

 馬は呑気にゆっくりおきる。

 目も眠たそうだ。

 私はそれを見て和み、気分を落ち着かせた。

 馬2頭は動き出す。


「寒いくないんですか?」


 少女に壁越しに心配される。


「心頭滅却すれば北極もハワイよ」

「何ですかそれ?」

「日本の思想よ」



 同じ時。

 鎖男、名をゴウは修行の為地獄の道を歩いていた。

 砂の道は足を取られる上に氷点下を超える寒さがゴウを苦しめていた。


「馬車で来ればよかったか? これ?」


 そう考えるゴウ、そんな時に後ろから馬の足音が聞こえた。

 ゴウは振り返り闇が広がる道を見る。


「おーい! ここに人がいる! 乗せてくれ!!」


 人の声は聞こえず馬の足音だけがゴウに近づいてくる。


「おーい! 止まって乗せてくれ」


 しかし相変わらず近づいてくる馬の足音。


 ゴウは目を見開く目の前に蒼ざめた馬の頭があったからだ。

 グシャ、ゴウは馬に踏まれた。


 馬車から笑い声。

 乗っていたのは伊藤数とその部下だった。


「生憎席が無くてね!座れねーんだ」


 伊藤数は笑顔でそう言った。

 馬車は伊藤数の先人が通った道を行けという命令の元、月島楓の通った道を走っていた。


「なんか遠くに湯気が見えるな、そこに行け」


 伊藤数は部下の運転手に命令を下した。



 続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る