第3話 地獄への長い道のりの道のり

 私の名前は月島楓。訳あって裸の少女達を地獄へ送らないとならない。


 少女達は悲しんでいた、死後の世界が思っていたのと違うかったからだ。

「うええん!」

 1人が泣くとみんなが泣いた。

 カラス頭の誘導者が鞭で叩き、少女達を暗い穴に突き落とそうとするが私はハンドジェスチャーでそれを阻止する。

 このカラス頭、なかなかひどい奴だ。


「へい、テロリストでしょ? あんた達」

 泣いていた少女は違う、と否定する。

「私達は戦士だ!」

 なるほど戦士テロリストか。

「そう、じゃあ戦士諸君、私は君達を保護する者よあなた達の味方」

「あの……私達は本当に地獄へ行くのですか?」

「そうよ、エンマ・システムに診断されたでしょ? あんた達が生前どんなを信じてたのか知らないけど……まあそういう知識はあてにならないから頭の塵箱につっこむといいよ」


 エンマ・システムとはから人が来る際に住む場所を判断するプログラムだ。

 天国か地獄か……それを機械に任せるのはシステム判断方が確立した20年前からその責任の重い診断を機械に任せるのはどうかと賛否が分かれているが特に生前歴史に関わるような事をしていない人物の場合なら最近は判断を任せられる場合が多い。


 少女達はまだ泣いている。しくしく、しくしく、と。天国へ行けると思ってたら地獄行きになった、成る程、悲しいかもな、でも待ち合い室の奴らと比べると何というか、地味だ。味気がない悲しみ方だ、戦士だからかなのか? それとも5人ともそういう性格なのか、あまり人と触れ合わない私にはまだ分からない。


「泣くのは良いんだけど早く行くわよ、地獄へ」


 面倒臭くなったので本題を言うことにした。

 私の仕事はこいつらを泣き止ませるベビーシッターじゃなくこいつらの命を守るボディーガードだからだ。


「ほら、早く穴に落ちなさい地獄はその穴の底に繋がっているわ」


 少女達は穴を見る、そして怯える。


「大丈夫、落ちたって死にはしないわ、穴には反重力装置が付いてて落下ダメージをやわらげることができる」


 少女達は更に怯える。

 ダメージをやわらげる、が駄目だったんだろうか? 全く痛くないといえば怯えなかっただろうか?

 …………恐れで入らないなら恐れで入らせれば良いだけか。


「さっき穴に飛び込まなかったやつがそのカラスみたいなのに鞭で打たれて穴に落とされたわよ」


 カラスみたいなのは、私の言葉を聞きヒュバッ、と有刺鉄線の鞭で空を切るパフォーマンスを魅せる。

 仕事なので喋らないけど本当はノリのいい奴だ。

 このパフォーマンスで少女達をより怯えさせることに成功した。

 もう一押し。あと一言で飛ぶ。


「ぱーん!」


 私は大声で鞭の音を真似る。

 すると少女達は驚き5人同時に飛んで行く。

 行動は少女らしいが動作は5人とも馬のような美しいジャンプだった、戦士を名乗るだけある。

 少女達は暗闇へと消えて行く。


「じゃあね朝月、また休みの日に会おう」


 カラスみたいな奴こと朝月知子あさつきともこはこくり、と頷く。

 私は暗い大穴に飛び込む。

 この穴は落ちると加速する。

 この速度はいつも自分が光になったような気分になる。

 ヒュイィン、頭の中に反重力装置の音が響く。

 頭が痛い、とっても嫌な気分だ。吐きそう。

 一瞬の時間で地の底の地獄に行く、この装置が無ければ地獄へ行く道に降りるのにも数日掛かることとなるその時間を考えればこの平衡感覚の狂う音も我慢出来る気がする。

 ヒュゴウ、と音が別の物に変わる、変わったところでそれは頭の中に響く音なので嫌な音に変わりはない。

 この音は落下の加速をやわらげる音だ。

 その音を聞き私は下を見る。

 さっきまで真っ暗だった足元には砂漠の砂で出来た地面が見える。


 バシュッ、と私と私の周りに砂煙が舞い上がる。地獄の道に着いたのだ。

 足に衝撃を受けて痺れる。私は天使なので痛くないが人間の軟弱な体じゃちょっと痛いかもしれない。

 私は先に降りた少女達を探す。

 いた、彼女達は褐色の肌をしているので探しやすい、裸だし。

 彼女達のいるところに行く。彼女達は私に気づくと露骨に恐れを顔に出した。

 子供に嫌な顔されるとこっちまで嫌な気分になる。


「やあ、戦士諸君、君らが戦士ならきっと今落ちたのもあんまり痛くなかっただろ? 見てみろ諸君、ここが地獄へと通じている試練の道だ」


 元気づけるためにちょっと軍人っぽい話し方をしている。

 すると少女達は熱い、と言ってきた。

 そりゃ裸だし、当然と言えば当然だが。

 ……彼女達が1人や2人なら私のジャケットと下着を着せてやる所だが5人だ、どう足掻いたところで服が足りない。1人や2人だけ服を着せても仕方がない。


「知るか、行くぞ」


 軍人っぽい言い方で私は砂漠を歩き出し砂山を登り出す。

 彼女達は私が怖いのか、泣きながら着いてくる。

 私はその光景を見て昔見た軍隊物の映画を思い出した。

 紛争地帯でアメリカ軍小隊が爆発する敵のアジトから少年兵たちを救い出すシーンだ。


「ほら行くぞ、お前達は結構恨まれてるんだ、テロったからな早くしないと追っ手が来るぞ」

「テロじゃない!……です……私達は……」

「私がテロと言えばテロなのだ! あんた達の信仰なんて塵だ、あんた達の聖典にどんな地獄が描かれてようとそんなのここじゃ、あてにならないんだ、そんなの頭の中の塵箱へぶち込んどけ。分かるか? 分かるな?」

「うええええん」


 1人が泣き出すと全員が泣く少女達。

 ……軍人っぽい言い方が駄目だったか? 戦士のくせに。

 面倒になったので無言で歩く。

 泣きながらもちゃんと着いて来る少女達。


 ……昔飼ってたハムスターみたいで少しかわいい。


 砂山を越えると馬車広場が見えて来る。

 スター、とスライディングで砂山を下る。

 彼女達も下る。

 裸だとなんか痛そうで降りた時傷だらけだったがそれに関しての悲しみはないようだ。

 さすが戦士。勇ましい。


 馬車広場には地獄に行く馬車がいっぱい並んでいる、私のように仕事で行く奴の普通の馬車から罪人を送り出すための精神安定ガス取り付け車両、地獄にはないモノの輸入車両まで。その中から適当に戦闘に向いている防弾車両を広場の従業員に頼んで持ってきて貰った。


 馬車を引く馬は蒼ざめた顔をしたブルーフェイスという高温の世界でも安定した速度で走る品種だ。

 馬車のカゴは黒い鉄で四角の形。4つの中指程の小さい窓から銃があり射撃出来るようになっている、それを見て少女達は内輪で言っていたが射角と射界が悪すぎて敵に当てるというより威嚇射撃程度のことしか出来ないようだ。


 私は追加で従業員に少女達の服と毛布。それに制圧用のゴム弾を撃ち出すショットガンを6丁とその弾薬を13ダース、スナック菓子を3ダース、水1.5リットルを7ダース注文した。

 経費で下りるから出来る買い物だ。

 それらと少女達をカゴに乗せて私は運転席に乗る。

 手綱を握り馬を走らす。


「長い旅の始まりだ。」


 スナック菓子を食べながら私はそう言った。



 黒い馬車が熱い陽射しの中、砂漠を走り去る。

 それを見てたら黒いカラス頭を思い出した鎖の男。

 彼は砂漠を歩いていた。

普通、地獄へ行く罪人は簡素な馬車のカゴに詰められ3日をかけて地獄へ送られる。

 だが彼は歩いて行く、何故か? 理由は修行だ、彼は生前ストリートファイターをやっていた人間で強さにこだわりがある。そういう人間は死んでも変わらない。


 続く。

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