テュポーン
「〈鑑定〉が通らない!」
前衛の、若い女性の探索者が悲鳴のような声をあげた。
「あいつ、少なく見積もっても千二百階層級の化け物よ!」
〈鑑定〉が通らない、というのは、〈鑑定〉スキルで相手の諸元データを読み取ることができない、ということだ。
スキルといっても決して万能なものではなく、スキルを使う対象が、スキルの使用者よりも遥かに格上である場合は、その機能が自動的にキャンセルされることがある。
その声を発した探索者の場合は、迷宮の千二百階層前後に出没するエネミーのデータまでは、どうにか読み取れるのであろう。
この〈泥沼〉に出没する、亀型とか鰐型エネミーの実力がおおよそ五十階層前後に相当をすることを考えると、かなりの実力者であるといえる。
しかし、あの大広間の中央にうずくまっているエネミーは、その実力者の〈鑑定〉スキルすら、弾く存在であるということも、これで確定したことになる。
「慌てない、騒がない!」
鵜飼瑠美が大きな声を出した。
「逃げられない以上は、この場で最善を尽くす!
それ以外の選択肢はない!
後衛組は通路を閉鎖!
これ以上に、外のエネミーがこの広間に入ってこれないようにして!
前衛組は、あの大物を警戒!
誰か、あの大物までの距離、わかる人はいる?」
「おおよそ八百メートル!」
〈鑑定〉系スキル持ちの誰かが即答した。
「じゃあ、前衛の準備ができ次第、早川さん、あれを攻撃してみて!」
鵜飼瑠美は、リーダーとして今回参加しているメンバーのスキル構成などにいても、おおよそのところは事前に把握していた。
これだけ距離が開いていると、ここからあの大物に届けるほどの遠距離攻撃が可能な探索者は、このパーティの中では軍司ひとりしかいない。
「攻撃をするのは構わんが」
しかし軍司は、あの大物を攻撃することに対して難色を示した。
「かえって、面倒なことになりはせんかの?」
「いつまでぼけっと立ち尽くしていても事態は改善しないし!」
鵜飼瑠美は早口に指示を出した。
「〈盾術〉系のスキル持ちは、早川さんを中心に援護隊形とって!
ふーちゃんは、悪いけど後衛を中心にしてわたしらがやって来た通路閉鎖の指揮をして!」
「了解!」
扶桑文佳が即答する。
「世良さん、〈地雷〉設置をお願い!
田坂さんは、その護衛を!」
当面、やるべき仕事をリーダーから割り当てられた探索者たちの動きは早かった。
皆、相応に年季を積んで来た探索者たちばかりなのだ。
軍司の前に、〈盾術〉系のスキル持ちたちがあっという間に並び、肉の壁を作ってそれぞれに盾を構える。
構えた盾も、そのほとんどがなんらかの特殊効果が付与されている、ドロップ・アイテムであった。
人間の技術力で製造できる防具類は、まだまだこうした迷宮内で入手できるドロップ・アイテムの性能に及ばないことが多い。
この〈盾術〉スキル持ちたちの防御力は、おそらく、数多くいる探索者たちの中でも、最高レベルに近いものだろう。
「この状態で、撃てますか?」
盾を構え、軍司に背をむけたまま、〈盾術〉系スキル持ちのひとりが軍司に確認をしてきた。
「おうよ」
軍司は短く答える。
「十分よ」
軍司の前で横一列に並んだ〈盾術〉スキル持ちたちの間は、それぞれ五十センチほど間隔が空いている。
この大広間中央に鎮座している、正体不明のエネミーを狙うにのには、十分な隙間であった。
「ほんなら、撃つぞ」
軍司はそう宣言してから指鉄砲を構え、
「バン」
と、短く唱えた。
軍司のスキルの弾丸がエネミーに届くのと、果たしてどちらが早かったのか。
唐突に、盾を構えていた探索者たちのうち、数人の体が、物凄い勢いで真上に持ちあげられた。
「なにが!」
鵜飼瑠美が明らかに狼狽し声をあげている。
軍司は上の方向に姿を消した探索者たちを目線で追いかけ、その足元に太い、紐状の物体が巻きついていることを視認したあと、立て続けに、
「バン、バン、バン、バン……」
と呟き、探索者たちを持ちあげていた物体を〈狙撃〉スキルで分断する。
空中に持ちあがっていた探索者たちの体が、前後して泥水の上に落下して、濁った水しぶきが立て続けにあがった。
「正体まではわからんが」
軍司は、そう告げた。
「あのエネミーはどうやら、えらく細長い部分を持っているようだの」
「そんな!」
扶桑文佳が、悲鳴に似た声をあげた。
「〈察知〉スキルに引っかからなかったのに!」
〈察知〉スキルは、その名の通り、エネミーの接近をなんらかの形で探索者に告げるスキルである。
ただこの〈察知〉スキルも、対象とするエネミーとスキル所持者との間に大きな実力差が存在すると、うまく働かないことがあった。
こうした事情は、〈鑑定〉系のスキルと共通している。
「つまり、あのエネミーがそれだけ、わたしらよりも格上だっていうことでしょう!」
鵜飼瑠美が、声を張りあげた。
「でも、早川さんの〈狙撃〉は通用している!
ってことは、わたしらのダメージは通るってことだ!
これだけの人数がいれば、決して倒せない相手じゃない!」
同じパーティの探索者に聞かせるために、虚勢を張っている部分もあるのだろう。
それでも、そういう鵜飼瑠美の声は、やけに生き生きとしていた。
「〈狙撃〉が通用するというても」
軍司は、口の中でも小声で呟く。
「そいで、あのエネミーがどれほど弱っておるのか、どうにも見当がつかんの」
そもそも、大勢の〈盾術〉持ちたちを持ちあげたあの細長いのが、単一のエネミーの一部なのか、それとも複数のエネミーの集合体なのか、今の時点ではそれすらもわからない。
「相手の正体が不明だから!」
鵜飼瑠美が、また声を張りあげている。
「まずは、守りを硬くしながら、攻撃を加えていきましょう!
児島さんと岬さんは、前方の泥水をできるだけ広い範囲で凍らせて!
ふーちゃんは、例の炎の鳥をできるだけ出して、こっちの全員を援護させて!」
〈氷結〉系スキル持ちの探索者たちに泥水を凍らせるのは、先ほどのような、細長いの部位を泥水の中に沈めた状態での不意打ちを避けるためである。
リーダーである鵜飼瑠美は、パーティの全員の所持スキルを把握していた。
「早川さんは、〈狙撃〉であれをどんどん撃っちゃって!」
「ええんか?」
続けてそういった鵜飼瑠美に、軍司は即座に訊ね返す。
「あれを、刺激することにはならんのか?」
「なるかも知れないけど、この際、考えない!」
鵜飼瑠美は、きっぱりとした口調で答える。
「早川さんの〈狙撃〉があれにダメージを与えられるのは確かなようだし、だとすればどんどん攻撃をしてあれを弱らせておいて!」
それでは、と、軍司は八百メートルも先にいるエネミー、ここからだと、ぬめぬめと蠢く不明瞭なかたまりにしか見えないそれにむかって指先を構え、
「バン、バン、バン……」
と、何度も連続して呟いた。
「おれたちまで氷漬けにするつもりか!」
泥水の中に放り出され、全身を泥まみれにした探索者たちが、そんな悲鳴をあげながら逃げ惑う。
その足元の泥水が、児島と岬のスキルによって、凍りついていく。
軍司は〈狙撃〉スキルによって、はるか遠くにいるエネミーに対して何度も攻撃を加えた。
軍司の表面に蠢くなにかにいくつもの穴を穿ったのだが、それであのエネミーが弱ったようにも見えない。
扶桑文佳が例の赤い杖から立て続けに出した炎の鳥は、もう何百羽にも増えて探索者たちの頭上を旋回している。
数分は、そんな状態が続いた。
「来る!」
なぜか喜々とした声をあげて、鵜飼瑠美が〈盾術〉持ちたちが作る列の前に飛びだした。
鵜飼瑠美の言葉通り、八百メートルも先のエネミーから、何条もの細長いの物体が伸びて、こちらにむかってくる。
直径が、太いもので三十センチほどのその紐状の物体は、それぞれの先端に口と牙、それに目や鼻穴がついていて、蛇の頭部に酷似していた。
その程度の太さの物体が何百メートルも横に伸びる、ということは、ほどの硬い物体ででなければ、物理的にほとんどあり得ない。
だが、なにせここは迷宮の深部である。
そのエネミーは、物理法則に反する不自然な動きで長々と胴体を伸ばして、その複数の鎌首で探索者たちを襲う。
その蛇の首を、凍りついた泥水の上に立った鵜飼瑠美が立て続けに切り落とした。
鵜飼瑠美は相変わらず素手であったが、手刀と蹴り、それにそれらに付随したスキルを駆使して、自分の周囲にある蛇体を片っ端から分断していく。
手足の動きも素早かったが、耐えず移動をして自身の居場所を変えながら、できるだけ多くの蛇体を切り裂くようにしていた。
「よっしゃあっ!」
「いけるぞ!」
「リーダーに続け!」
他の探索者たちも、その様子を見て勢いづく。
「〈雷鳴斬〉!」
直接、攻撃スキルを叩き込む者。
「〈ウィンド・シールド〉!」
エネミーの行く手を遮り、動きを阻害する者。
「〈ファイヤ・ロンド〉!」
遠くから、広範囲に作用する攻撃スキルを叩き込む者。
やり方はそれぞれに異なっていたが、とにかくそのパーティに属しているほとんど全員が、自身が持っているスキルを駆使して無数に襲ってきたその蛇体を倒し続けた。
もちろん、軍司の〈狙撃〉と、扶桑文佳の〈ファイヤ・バード〉も、同様に加勢している。
熟練した探索者たち、十名以上による総攻撃の威力は凄まじいものであった。
周囲の空気、爆煙や雷撃によって加熱し、オゾン臭を含み、一度は完全に凍っていた泥水の表面が溶けかかる。
それだけの攻撃に晒されていてもなお、エネミーによる攻撃が途切れることはなかった。
空中を、不自然な起動を描いて滑るように移動してくる蛇体は、いくら蹴散らしても次々と新しいものが送り込まれて来て、その密度が薄まることはなかったのだ。
「いくらなんでも、こりゃあ」
探索者の誰かが、ぼやいた。
「キリがないんじゃないか?」
それが合図になった、というわけでもないのだろうが。
新しい動きが、起こった。
エネミーに対応していた探索者たちの背後で、通路の閉鎖を担当していた世良の体が、唐突に持ちあがる。
世良は、そのとき泥水の上に身を屈めるようにして〈地雷〉の設置作業をおこなっていたのだが、その足首と腰とに、蛇体が巻きついていた。
「なろう!」
いち早くその異変に気づいた田坂が、〈ファイヤ・ショット〉でその蛇体を焼き切り、世良の体は泥水の上に投げ出された。
「どこから出て来やがった!」
もちろん、それのみで攻撃が止まるはずもなく、泥水の中から次々に蛇体が現れて、鎌首をもたげて世良と田坂に遅いかかる。
世良と田坂は、それぞれ〈投擲〉と〈ファイヤ・ショット〉のスキルで応戦をするのでだが、いかんせん、蛇体の数が多過ぎた。
二人のほぼ全周に渡って出現した蛇体は、数百から数千位上。
そのすべてを、この二人だけで短時間のうちに処理することは、不可能といえる。
圧倒的に、火力が不足していた。
「誰かが後衛に援護にいって!」
遠くから、誰よりも早くその状況を把握した鵜飼瑠美が、他の探索者たちに支援を呼びかける。
「いつの間にか、あんなとにころまで回り込まれている!」
それぞれ、目前のエネミーを夢中になって退治していた探索者たちが、声をかけられたことによってはじめて背後の状況に気づき、振り返った。
そして、そこに出現していた蛇体の密度をその目で見て、驚愕する。
「やつら、泥水の下を迂回してきたのか!」
泥水を凍らしたのは、彼ら探索者たちがやって来た通路の正面部分だけであった。
それだって、かなり広い範囲を凍結させているのだが、流石にこの広い大広間の床面、すべてを凍らせることまではしていない。
時間的な猶予が無限にあったのならばそうしていたのかも知れないが、次々と無限にも思える蛇体が襲いかかって来ている現状では、そんなことをしている余裕もなかったのだ。
そうした蛇体に対応するだけでも、かなりの時間が取られるのである。
すぐに何名かの探索者たちが、そちらの二人を援護するために動きはじめる。
泥水を凍らせることができるスキルを持つ児島と岬とは、誰にいわれるまでもなく、改めてまだ凍らせていない泥水に自分のスキルを使いはじめた。
この先も、泥水に潜伏し、探索者たちが気づかないうちに蛇体に接近されたら、なかなか面倒なことになるためであった。
一度に五人以上もの探索者たちが抜けたため、今度は正面方面の火力が薄くなり、結果として次から次へと襲ってくる蛇体たちが優勢になる。
それら、蛇体による攻撃は、噛みつく、あるいは手足や胴体などに巻きついて締めつける、などの、単純な物理攻撃のみに限られているようであった。
田坂の〈パーフェクト・カウル〉の影響下にあって防御力が増強されている現在の探索者たちにしてみれば、到底致命傷とはなり得ない。
仮になんらかの攻撃を受けたとしても傷ひとつつかないはずだが、このうちの後者だけは、注意が必要であった。
そうした蛇体に巻きつかれ、拘束をされ、執拗に攻撃をされたとしたら、以下に最新の装備に身を包んだ探索者といえども、どこまで無事でいられるのか定かではない。
特に装甲が薄い顔面部分を狙われたら、比較的容易く致命傷を負いかねないのだ。
ヘルメットに包まれた頭部はさておき、顔面の部分は特集な硬化処理を施されただけのフェイスガードで覆われているだけなのである。
いずれにせよ、そうした蛇体たちが近づくよりも早くに始末をし、無害にしておくのが一番なわけだが。
探索者側の火力が分散されてしまったため、それも、だんだんと難しくなりつつあった。
「畜生!」
休む間もなく次から次へと襲ってくる蛇体を引きちぎり、蹴散らしながら、鵜飼瑠美は悪態をつく。
「ここに来て!」
劣勢になるとは、とは、口に出すことはできなかった。
鵜飼瑠美はこのパーティのリーダーであり、他の探索者たちの士気をさげるような言動をするわけにはいかないのだった。
だが、同時に、今の状況が好ましいものではないということも、理解をしていた。
無限にも思えるエネミーからの攻撃を、探索者たちは、一見、豪快に跳ね返しているように見える。
しかしその実、展望がない防戦をいつまでも強いられているだけであった。
どうすればこのエネミーの攻勢を弱らせ、止めされることが可能なのか。
その展望が、見えてこない。
仮に、世良や田坂、後衛で動いていた二人が襲われていなかったとしても、こうした状態が長く続けば、探索者たちの心身は消耗して、いずれはエネミーに押し切られたのではないか。
この状況を打開する可能性があるとすれば、それは。
鵜飼瑠美は、手足を動かしながら、無数の蛇体がやって来る、その方角に目線をむけた。
あそこ。
この大広間の中央に居座っていた、あのかたまり。
あれが、おそらくはこの無数の蛇体からなるエネミーの、根元だ。
あれを直接的攻撃し、撃破すれば、おそらくは、こっちに来ている蛇体も消える。
そこまでいかなかったとしても、これ以上に蛇体が増えることはない。
そうであると、鵜飼瑠美は思いたかった。
もっとも。
と、鵜飼瑠美は、そう思って口の端を歪める。
仮にその予想が当たっていたとしても、これだけの猛攻を捌いてあの根元にまで肉薄するのは、ただそれだけの作業だけでも、かなり苦労しそうであるが。
いや、今はそれよりも、もっと目先の、後衛の救出を。
と、思いかけたところで、鵜飼瑠美は視界の隅に異変を感じた。
「〈バニシング・スィープ〉!」
田坂が叫ぶと、田坂を中心とした半径五メートル以内の蛇体が消失した。
通常の、物理的に、あるいは、スキルによる攻撃ではない、はずだ。
ただ単に、「消えて」いる。
中には、胴体の途中から、弧を描いて消えている蛇体もあった。
当然そうした、途中から途切れた蛇体は、断面から鮮血を流しながらどぼどぼと泥水の中に落ちていく。
田坂自身は、そうした周囲の状況に頓着する様子もなく、〈ファイヤ・ショット〉を連発して、周辺の蛇体を掃討していたが。
「おい、リーダー!」
そんな田坂が、大きな声で鵜飼瑠美に確認をしてきた。
「通路の閉鎖は、もういいだろう?
うしろから別口のエネミーがこれからやって来たとしても、そんときはそんときだ。
それよりも今は、戦力を分散している方がやばい!」
「そうだな!」
鵜飼瑠美は、大きな声で返答をした。
「このしつこいエネミーも、パーティ全員でかかればどうにか押し返せるようだからな!」
「だったら、とりあえず体勢を立て直してくれ!」
泥水の中で尻餅をついていた世良に手を差し伸べながら、田坂はいった。
「その先は、なんか考えがあるか?」
鵜飼瑠美は探索者たちを一度、凍った泥水の上に集合させる。
そこで円陣を組んで、全員で全周を警戒し、攻撃する隊形となった。
集合する間にも無数の蛇体による攻勢は続いていたから、全員でその蛇体に対応をしつながらの移動となる。
「なんか打開策はないか?」
どうにか円陣が完成したところで、田坂がいった。
「こんなん、いつまでもつき合っていたって、ラチがあかねーぞ!」
「それでうまくいくかどうか、保証できないけど」
鵜飼瑠美がいう。
「エネミーの根元を、倒してみようと思う」
「エネミーの根元だ?」
田坂は訊き返した。
「あの、広間の中央にいたやつのことか?
案外、それでうまくいくのかも知れねーな」
迷宮は、ときに理不尽な現象が起こる場所であるが、その理不尽さにも、一定の法則がある。
つまり、探索者の手によって打開できない状況を、迷宮が用意することはない。
これまでの経験から、田坂はそのことを学んでいた。
今回の場合も、案外、そんな単純な手が、正解なのかも知れなかった。
鵜飼瑠美と田坂がそんなやり取りをしている間にも、他の探索者たちは、蛇体に対応をしつつ、お互いに〈ヒール〉をかけあったりしている。
奇跡的に重傷者はまだ出ていなかったが、軽い捻挫や打ち身、肋骨などに皹が入るなどの軽傷は、何名かの探索者が負っていたのだ。
これだけの攻勢に晒された上で、その程度で済んでいるのだから、まだしも運がよい方なのだろうな、と、鵜飼瑠美は思う。
「では、これより全員で、準備が整い次第、この広間の中央にむかう!」
鵜飼瑠美は、そう宣言した。
「ところで、田坂のおっさん。
さっきのスキルは?」
「ああ?
〈バニシング・スィープ〉のことか?」
田坂は、素直に答えた。
「あれは、おれの奥の手その一だ。
半径五メートル以内のエネミーのみを、どこかに消す」
「それは、連発できるスキル?」
「滅多に使えないから奥の手なんだよ。
一度使ったら、また使えるようになるまで一時間前後かかる」
少なくともそのスキルは、この場ですぐには利用できなさそうだった。
しばらく経ってから、探索者たちは円陣を崩さないように気をつけながら、ゆっくりとした速度で大広間の中央にむかって移動を開始した。
ゆっくりとした速度になったのは、以前よりも蛇体の密度が濃くなったため、そちらの駆除に注力しなければならなかったかだ。
「いくら倒しても、次から次へと!」
ある男性の探索者が毒づいた。
「こいつらは、無限に出てくるのか!」
「あるいは、その通りかもな」
別の探索者が応じる。
「蛇っていえば、昔は生命力の象徴だったそうだし。
それに、迷宮やエネミーが相手なら、どんなデタラメだってあり得る!」
探索者たちが通ったあと、凍った泥水の上には、引き裂かれ、切り刻まれ、焼き払われた蛇体の残骸が降り積もっていた。
この大広間では、雨や氷雪のように生きた蛇が無限に降り注ぎ、探索者を襲っているのだ。
「それじゃあ、元から絶たなけりゃあ駄目っていうリーダーの読みは?」
「ああ。
当たっている可能性は、十分にあると思う」
「少なくとも、試す価値はあるだろう」
「このまま同じことをしていたって、ジリ貧だもんな」
そんな会話を交わす探索者たちに悲壮感がないのは、このパーティに参加している探索者たちのほとんどが、こうした危機や修羅場をそれなりに潜ってきた経験を持っていたからだろう。
そのため、必要以上に現状を悲観せず、その場でやれるだけこのことを試してみる、という、探索者としての精神が自然と備わってしまっている。
そうした修羅場を潜った経験がない探索者は、この中では、探索者としての経験が浅い軍司くらいのものだった。
「怖い?」
不意に、隣にいた世良が軍司に声をかけてきた。
「怖いことは、怖いが」
軍司は、のんびりとした声で応じる。
「この年になるとの。
大抵のことには、諦めがつく」
もちろん、軍司とて、この場で果てるつもりではない。
しかし反面、
「そういう最後も、いいか」
という気持ちもある。
このまま老衰をしてお迎えが来るまで待ち続けるよりは、なんぼか面白そうな最後だな、とは思う。
「わたしは、怖い」
世羅は、そう続ける。
「こんなところで、終わりたくない。
まだ外に、待っている人がいる」
円陣を組んだまま進んでいくにつれて、つまり、この大広間の中央に近づくにつれて、蛇体の密度は濃くなっていった。
そうした反応は、探索者たちが距離を詰めるに従って、エネミー側が警戒を強めているようにも解釈できる。
ただ、勢いを増しているのはエネミーの側だけではなかった。
たとえば扶桑文佳による〈ファイヤー・バード〉というスキルは、数十秒間をかけて一体の炎でできた鳥を生み出すスキルなのだが、このスキルは一度に発動すると、その持続時間は理論上無限に近い。
そのため、そうした炎の鳥は、今回のような長丁場の戦闘の場合は際限なく増えていくわけで、現状でもすでに千羽以上の編隊となって探索者の周囲を巡っていた。
その火力は凄まじいものであり、他の探索者たちはその炎の鳥が討ち漏らしたエネミーのみを始末すればいい状態になっている。
この扶桑文佳の手による炎の鳥が存在をするだけで、探索者たちの心身の消耗はかなり軽減されていた。
他の探索者たちにしても、他のパーティメンバーを支援するスキルを持っている者がほとんどであり、お互いの活動を助け合いながら、彼らは進んでいった。
「目的地まで、あと百メートルを切りました」
〈鑑定〉スキルを持つ誰かがいった。
ちなみに、円陣を組んで移動を開始してから、三十分以上が経過している。
たかが七百メートルほどの距離をそれだけの時間をかけて、と考えると、特に探索者の身体能力を考慮すると奇異に思えるのかもしれない。
が、途中、何度か厚さ半メートル前後の泥水を完全に凍らせながらの前進であるから、この程度の時間はどうしても必要だったのだ。
彼ら探索者たちにしてみても、ここへ来て性急に先を急ぐよりは、これ以上、泥水の中からの不意打ちを受けないよう、避けることの方を選択したのであった。
「ほとんどの遠距離攻撃スキルが届く間合いです。
この場から攻撃を開始しますか?」
「その前に、もう一度こちらの体勢を見直して、不安がないかどうか点検しておこう」
鵜飼瑠美が、落ち着いた声を出す。
「土壇場で、相手が妙な手を使ってこないとも限らない」
「では、円陣は崩さないまままで?」
「今は、攻撃よりも防御を重視しておこう」
鵜飼瑠美は、これについてもそう答える。
「なんにせよ、全員で無事で外に出ることを一番の目標にしておく」
そうした遠距離攻撃スキルの持ち主を、攻撃目標である大広間中央部に対面させる陣形を作ることは可能であり、また、そうした方が火力が増すことも確かのだが。
鵜飼瑠美は、そうした攻撃力を増すことよりも、不測の事態を想定して、いざというときに柔軟に対応できるようにすることを選択したのだ。
ただ、円陣は崩さないまでも、遠距離攻撃スキルのうち、攻撃力に秀でた者を中心にして、その大広間中央部に面した場所へと移動させることはしている。
軍司ものそうちの一人として、場所を入れ替えて移動をすることになった。
「それじゃあ、目標は百メートル先のあのかたまり!」
鵜飼瑠美が大きな声をあげた。
「うまくいけば、これで終了!
遠距離攻撃スキル持ちの人たち、全力でやっちゃってください!」
先に結果からいうと、この一斉攻撃だけでは終わらなかった。
軍司の〈狙撃〉のように純粋に物理的な作用が、あるいは、扶桑文佳の〈ファイヤー・バード〉のように圧倒的な熱量が、その他、雷鳴や凍てつくような氷雨が、百メートル先にうずくまる、かたまりを襲った。
それぞれ、現れ方こそ違うものの、膨大なエネルギーが奔流となって、ただ一点を目指していく。
スキルによる一斉攻撃は、そのかたまりに命中し、確かに効果を現した、かのように見えた。
つまり、一瞬だけは。
かたまりの表面に蠢いていた無数の蛇体がその攻撃により、一瞬にして吹き飛ばされたのだ。
「おい!」
誰かが、叫んだ。
「こんなのって、ありかよ!」
「ここは迷宮だ!」
田坂が、怒鳴り返す。
「あり得ないことなんて、ないんだよ!」
かたまりの、表層を覆っていた蛇体の下から出てきたのは、四本の巨大な蛇に似たなにか、だった。
直径は、一メートル弱。
ただし、生身の蛇ではなく、それぞれの体は、炎と、氷と、雷と、土でできている、ように見えた。
そんな蛇の形をした何者かが、五メートル以上も鎌首を持ちあげて、探索者たちを値踏みするように見降ろした。
「どうする、リーダー!」
「どうするここうするも!」
田坂に確認をされ、鵜飼瑠美は素早く左右に目線を走らせてから、早口に答えた。
「対応するしかないでしょ!
セオリーからいえば、火には氷か水、氷にはその逆。
雷と土には、ええと、どうすればいいのかな?
とにかく、あとは各自の判断で、あいつらを倒せ!」
かなり大雑把な指示であったが、探索者たちは文句もいわずにその指示の通りにした。
そうしなければ自分の身が危ういのだから、必死になるより方法がない。
幸いなことに、それまで無数に発生していた蛇体が、その四体が出現するのと引き換えに消え失せていた。
そのため、扶桑文佳はすでに出ていた炎の鳥のすべてを、氷の蛇に差し向けることができた。
それだけの数の高温で燃え盛る炎の鳥から一斉に体当たりをされた氷の蛇はすぐに脆くなり、胴体のあちこちが折れ落ちて、そのまま粉砕した。
次に倒れたのは、炎の蛇だった。
児島と岬を主体とした、氷を操るスキルの持ち主が一斉にスキルを駆使した攻撃を放つと、炎の蛇は見る間に弱体化していく。
さほど時間を要せずに分断され、数分も保たずに消え失せた。
この二体は、探索者側にこれといった被害を与える前に倒すことができたわけだが、残りの二体はもう少し手こずることになる。
まず土の蛇はすぐに物理攻撃がある程度有効であると判明したのだが、そのかわりかなりタフなエネミーだった。
一度攻撃をしてその身を崩すことに成功したとしても、しばらく時間をおくとその崩れた部分がまた元通りに復元してしまうのだ。
これを完全に撃破するためには、その再生速度を上回る速度で、この蛇の体を崩していくしかない。
もう一体の蛇の方が、一番の問題だった。
雷、つまり電流。
実体がない上に、どうやればダメージになのかわからない。
さらにいえば、この蛇に触れられると、探索者の側は感電して、しばらく動けなくなる。
保護服の絶縁性能があっても、かなりのダメージを貰うほどの高圧電流であった。
この二体が隣接した状態でお互いにかばい合って動くとなると、流石の熟練探索者たちもしばらく攻めあぐねることになった。
雷の蛇が近寄って来た探索者の動きを止め、土の蛇が物理的な打撃を与える。
という連鎖攻撃をまともに食らうと、探索者の側も、〈ヒール〉程度ではすぐに回復をできないほどの手傷を追う。
いや、うまくその場から逃げ切ることができなければ、そのまま死ぬ。
その二体の性質を知るために、すでに最初の数分の間に数名の探索者が重軽傷を負っていた。
いろいろ試してみて、その二体の性質がある程度明らかになったこころで、他の二体を片づけた探索者たちが合流をしてくる。
「どうする、これ?」
その二体を遠巻きにしながら、探索者たちは相談をした。
「電流の方は、水とかぶっかければどうにかならんかな?
放電とかして」
「試してみるか」
二体の蛇も、別に探索者たちの出方を待つ一方ではなく、巨体に似つかわしくない俊敏な動きで身をくねらせて、体当たりをしてる。
探索者たちがそうした攻撃をしてかわせるのは、累積効果によって増大した身体能力を駆使して逃げ回っているからだった。
そうして逃げ回りながら、児島と岬が、二体の下にある泥水の氷結を溶いた。
扶桑文佳も、その周辺の表面に炎の鳥をぶつけて、氷を溶かしていく。
スキルで作った氷は、さほど時間をかけずにもとの水に戻すことができた。
あっという間に緩んだ氷面に、まず重量を持つ土の蛇の巨体が沈み込んでいき、次に隣接していた雷の蛇も、溶け出した水面に体が接して、その場で動きが硬直する。
その土の蛇に、十分に距離を取った場所に陣取った軍司が、次々と〈狙撃〉のスキルを命中させていく。
外しようがないほど巨大な標的であったが、その分、自分の攻撃がどこまでの打撃になっているのか、判断もつきにくい相手であった。
とにかく、軍司としては、このまま攻撃をし続けるしかない。
溶け出した水面に接した雷の蛇は、そのまま、あっという間に姿を小さくしていった。
小さくなりながら、抵抗をするかのように蛇体をうねらせ、そして、すぐに消失する。
炎の蛇や氷の蛇と同じく、倒し方がわかってしまえばあっけない最後であった。
残った土の蛇には、今や全員の探索者が取りついていた。
そう企図したわけではないのだが、雷の蛇対策に溶かした氷、その水分を吸い込んでいて、かなり鈍重になっている。
動きが鈍くなっているだけではなく、再生をする速度もかなり遅くなっているようだった。
いずれにせよ、今やこの土の蛇には、探索者が総出で取りついて、それぞれの武器による直接攻撃を敢行している。
その巨体ゆえ、全員が一斉に攻撃をしても同士討ちになる心配がなく、体が水を吸って重たくなっていたため、その動向に十分に注意を払っていれば、攻撃を食らう心配もなかった。
戦いというよりもこれは、すでに探索者たちによる解体作業とでもいうべき様相に移っていた。
つまりは、時間の問題であった。
「はは」
土の蛇はが完全に湿った土塊と化して動かなくなるまで、おおよそ十分ほどの時間を必要とした。
他の蛇よりは長持ちした方だが、終わってみればずいぶんと短いような気もする。
「終わったー!」
「勝ったぞー!」
土の蛇が土に還ったのを確認して、探索者たちは口々にそんなことをいいあって、はしゃいだ。
「まだだ!」
鵜飼瑠美が、鋭い声を出す。
「まだ、これで終わったと確定したわけじゃないし!」
探索者全員が、そんな鵜飼瑠美に視線を集めた。
「おかしいんだよねえ。
あれだけ苦戦をしたというに、まだドロップが出ていない」
鵜飼瑠美は、そういって歩き続ける。
「あれだけの大物を相手にしたっていうのに、だよ!
それに、この階層を踏破したボーナスもまだ出ていない!
これ、わたしらがまだやり残していることがあるってことじゃないのかな?」
鵜飼瑠美は歩き続ける。
この大広間の中央、あれだけのエネミーを出し続けて来た源泉へと。
「リーダーのいう通り」
田坂が、鵜飼瑠美のすぐあとに続いた。
「まだ気を緩めるな」
扶桑文佳が、世良が、小島が岬が、その他の探索者たちが、それぞれの得物を油断なく構えて、そのあとに続いた。
もちろん、軍司も、同じように、その最後尾に続く。
しばらく歩いて、その地点にまであと十メートルにまで近づいたとき、鵜飼瑠美は足を止めて表情を険しくした。
「待って!」
叫んで、鵜飼瑠美はあとに続く探索者たちを制止する。
「なにか、下から出てきている!」
最初に気づいたのは、
「なにか、盛りあがっている?」
ということだった。
こうして足を止めて目を凝らすと、それがうねうねと蠢く無数の蛇であると気づく。
また蛇か、と、鵜飼瑠美はげんなりする。
この大広間は、なんでだかわからないが、蛇尽くしの趣向で統一されているようだ。
しかし、その蛇も、ここから目測する限り、今度はごく普通の大きなのように見える。
何十か、何百か、絡み合うようにしてまとまって動いているのが、奇妙といえば、奇妙だったが。
いずれにせよ、あの程度ならば、スキルを使用すれば一発で一掃できるはずだ。
そうは思ったが、鵜飼瑠美はその場に足を止めたまま、慎重に事態を見守り続けた。
蛇の群れは、そのまま垂直に、どこまでも持ちあがる。
不自然といえば不自然な動きであったが、ここは迷宮だ。
この程度の不自然さは、かえって不自然ではないともいえる。
そのまま持ちあがり続け、蛇の群れが一メートル以上の高さにまで持ちあがったところで、鵜飼瑠美は疑念に捕らわれる。
あれは本当に、単なる蛇の群なのか?
あの蛇の中に、なにかがいて、蛇を持ちあげているのではないか?
鵜飼瑠美がそう思ったとき、蛇の群れが一斉に逆立った。
そして、その下から出てきたのは、彫の深い女の顔。
あ。
と、鵜飼瑠美は思う。
その女と目が合った瞬間に、鵜飼瑠美は動けなくなった。
なぜ、そこのことに思い当たらなかったのか。
髪の毛が蛇に変じた、あの怪物のことを。
その女怪は確か、目が合った者を石に変える能力を持っていたはずだ。
鵜飼瑠美だけではなく、他の探索者たちも次々にその女怪と目を合わせて、動きを止めていく。
女怪は、まず一番近くにいた鵜飼瑠美の肩に手をかけて、恐るべき怪力で、無造作に鵜飼瑠美の左腕を引きちぎった。
激痛で、なにも考えられなくなる。
その肩口から滴った生暖かい鮮血が、鵜飼瑠美の体にかかるのを保護服ごしに感じた。
ああ、これは死ぬな。
と、鵜飼瑠美は思った。
あの女怪の伝説では、その目を見た者は石と化すようだったが、現実には痛みも感じるし、出血もしている。
つまりは、鵜飼瑠美は身動きが取れないだけで、まだ生きていた。
それも、もう長くはないようだが。
パーティーのみんなが、あまり酷い目に合わなければいいが。
薄れゆく意識の中で、鵜飼瑠美はぼんやりとそんなことを思った。
その他の探索者たちは、その怪物が鵜飼瑠美の片腕を枯れ草かなにかのように引きちぎる様子を、身じろぎもできないままに見守った。
その怪物は、鵜飼瑠美の血を半身に浴びて、愉悦の表情を浮かべている。
なまじ人間に酷似した、美しい女性の顔だから、一層醜悪なものに思えた。
あれは、文字通りの怪物だ。
身動きできない中、大勢の探索者たちが、そんなことを思った。
動けないおれたちを嬲り殺しにして、楽しんでいるんだ。
もう少し、動いてくれんかのう。
と、軍司は思う。
ほぼ全員の探索者が絶望に押しつぶされている中にあって、軍司はそれ以外の、ごく少数の例外に属していた。
もう少し脇に動いてくれれば、〈狙撃〉ができるのに。
〈狙撃〉は、別に指鉄砲を作らなくても発動可能なスキルだ。
しかし、標的となるものが視界の中にないと、流石に難しい。
今、まばたきもできない軍司の視界には、前を歩いていた探索者の背中によって、かなりの部分が塞がれている。
先ほどの頭に多数の蛇を乗せている怪物が、また軍司の視界の中に現れてはくれないか。
その女怪は、探索者の手足を無造作に引きちぎりながら、前進を続ける。
肘から先、膝から先。
あるいは、手足の根元から。
ひとり、またひとりと探索者たちの手足が無造作に引きちぎられて、そのまま体とともに投げ捨てられる。
その怪物は、明らかにそうした残虐行為を楽しんでおこなっている様子だった。
もう少し、と、世良は思う。
この世良も、軍司と同じく、まだあきらめてはいない探索者であった。
次は、自分の番だ。
あの怪物が自分に触れたら、〈地雷〉スキルで、木っ端微塵にしてやる。
もちろん、そのときはその爆発に世良自身も巻き込まれてしまうわけだが、そんなことはもはやどうでもよかった。
その怪物は、頭髪と同じく、その下半身も蛇体だった。
蛇体の下半身を奇妙にうねらせながら、怪物が近づいてくる。
あと少し、というところで、怪物は進むのをやめて、フェイスガードの特集樹脂越しに、世良の目をじっと覗き込む。
なんで?
と、世良は疑問に思ったが、怪物は、ふいに顔を背けて別の方向に進み出す。
くそっ!
身動きのできない世良は、心の中で悪態をついた。
そして次の瞬間、怪物が吹き飛んだ。
数メートル先の地面に転がった怪物が、二度、三度とその身をくねらせる。
よく見ると、体のそこここに直径三十センチ以上の大穴が穿たれていた。
「体が、動きよるぞ!」
軍司の声が聞こえる。
「皆の衆、やつをば、完全に叩きのめせ!」
いわれるまでもなかった。
体の自由を取り戻した探索者たちは一斉に動きだし、その怪物に対してスキルの集中砲火を浴びせる。
怪物は、数秒もしないうちに焼けただれた挽肉と化した。
「2012年、フユ」編、了。
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