きみがいなくなること (5)
彩香は優しいやつだ。
自分よりも他人の幸福を願い、他人に負わせるくらいなら自分が不幸を背負おうとするような、そんなあたたかく、あまりに眩しい綺麗な心を持っている。自慢の幼馴染で、そんな彩香が自分の近くにいてくれて、これまでどれだけ救われたかわからない。失いたくないと、切に想う。
だから、最初は何でよりにもよってと思ったけれど……今思えば、そんな彩香の近くに人々を救済しようとする天使がいるというのは、とても自然なことのように思えた。
同じ心を持ち、同じように人を助ける。
それはとても素晴らしいことだろう。この理不尽な世のなかで、そんな存在がいるならば救われる人がたくさんいるはずだ。
だから天使も。彩香も。きっとこの現実にとって必要な存在なのだ。
だけど。
そのなかに、悪人への救済が入っているのは許せない。そんな無差別は救いにならない。やつらが無事生きのびたとして、その先に何が待っているというのか。
そんなのは、他者への不幸でしかない。
だから俺は。人を救うという天使と関わりのある彩香が、人を殺すという死神と関わりのある俺を責めたてようというのならば。
敵対しなければならない。
たとえ彩香の心が、俺の前から消え去ってしまうのだとしても。二度と話ができなくなったとしても。俺を心の底から嫌悪し、二度と関わらなくなるのだとしても。
明里が言ったとおり……たぶん、ぜんぶ知っているのだろう。俺が今、どんな存在と行動をともにし、どんなことをしているのかも。
天使がずっと俺の部屋にいて、そのパソコンで開かれているものを何度も見たというのであれば、それはあきらかだろう。
きっと俺が明里に、天使が彩香の近くにいると聞いていたまさにそのとき……彩香もまた天使から、死神が俺の近くにいること、そして俺が何をしているかも聞かされていたのだろう。
そして天使から話を聞いた彩香は、迷うことなく俺にメールをしたのだ。俺が人殺しをしているなんて聞いて悩んだりはしないだろう。話があるからすぐに会いたいと、メッセージはとても簡潔につづられていた。
すぐ行くと返事を送って、俺は明里を連れて待ちあわせ場所へと向かった。
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