きみが笑ってくれたから (7)
花散ともか先輩は、良い人だったと思う。
彼女はスーパーでバイトをしていたときに一緒に働いて、はじめて好感の持てる人だった。入りたてで緊張している俺にやわらかく接し、ほがらかに笑いかけてくれて、自分なりにとても一生懸命にわかりやすく仕事を教えようとしてくれた。
――半額シールは、期限が翌日のものに貼るの。このお豆腐とか油揚げとかはいつもギリギリだから貼ること多いんだぁ。こうやって、あらかじめ期限が近いモノをいくつか覚えておくと今後早くできるようになると思うよぉ。
――あっ、ともか、その奥のやつ違う! まだ明後日のだよ!
――え? あわわ、ご、ごめん! 剥がさないと……あああ、シールの跡ついちゃった。
落ちつきがなくてドジが多くて、同じく先輩だった冬見先輩に比べるとどうにも頼りなく感じたけど、健気な姿勢はとても好印象だった。あの人と一緒にする仕事は、俺にとってはじめて安心できるものだった。それまで苦痛でしかなかったバイトがあの人のおかげで変わったのだ。
だから俺は、あの人にとても感謝していたんだ。
あの人と、そして冬見先輩のいるこの場所なら、長く働いていけるかもしれないと思った。
でもそのあと、ふたりはほかの部署へと異動になってしまい俺と一緒に働くことはなくなってしまった。結局そのスーパーでのバイトは、かわりにこっちに入ってきた
事件が起きたのはその一ヶ月後だった。
つながりはそれほど強くなかったかもしれない。ほんの二ヶ月程度一緒に働いただけの関わりの薄い人だ。
でも……それでもあの人は、俺にとってかけがえのない存在だった。
そんなあの人が理不尽な理由で壊されてしまったことは、納得できなかったし、許したくなかった。あの人に罪はない。それなのに壊された。
そして壊した側は今もへらへらと笑って生きている。そんな理不尽があってたまるか。
だから俺は、あの人に理不尽を与えたやつを許さない。
あの人を壊したやつに、制裁を与えるのだ。
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