きみと出会ってかわったこと (13)



 明里と出会い、もう一週間がたった。

 それまではとくに変化もなく、機会を見て明里はたびたび力を使うよう促すが、それ以外はただふざけているだけだった。妙なことがあるとすれば、いまだに彩香の顔をチラチラ見ることくらいだ。自分と似た顔であることがそんなに慣れないのだろうか。それを気にしなければ、明里とすごす日々も平穏そのものとなっていた。

 そんな平穏は楽しくて充実している……わけもない。突飛なふざけた行動をはじめる明里を止めるのはひどく大変なもので、むしろ前までの日々よりも数段キツイと言えた。学校でも気は休まらないし、バイト中だってどうでもいいことやトンチンカンなことをいちいち報告してきたりと、仕事をするうえでは大層迷惑だった。四六時中一緒にいるため常にリラックスはできないし、なんだかもう勘弁してほしかった。

 なのに。

「優、最近なんか明るくなったよね」

 一週間前とは真逆のことを、放課後の帰り道で彩香に言われた。あのときは猛烈に心配されていたのに。思わずぼけっとして、何を言われたのかよくわからなかったくらいだ。

「明るく……?」

「うん。なんかいいことでもあったの?」

「いや、むしろ逆ならあったが……」

「え! やっぱりこの前なにかあったの!」

「なんでもない何でもない!」

 明るくなった? そんなふうに見られていたなんて意外だった。一刻も早く目のまえからなくなってほしいと思う災難は、今も俺の横で浮いているというのに。

「でも、よかった」

 クスリと笑って、彩香はそう言う。

「優って……今はなんだか、世のなかに対して冷めちゃってるみたいに見えたから、心配してたんだよ?」

「……そんなこと、ねぇよ」

「それに、バイトのこともあるし」

 その言葉に、心がチクリと刺されるような痛みが走った。

「良い経験になると思うよ、なんて言って私がすすめたのに、結局いつも長続きしなくって……ストレスも溜めちゃって」

「それは……べつに彩香のせいじゃないだろ」

 人間関係がうまくいかない。

 やめる理由はいつもそれだった。だけど、そこに彩香の責任なんかこれっぽっちだって含まれてなんかいないだろうに。

 うまくできないのは、俺の責任なんだ。

「彩香は何でもかんでも、自分のせいにしすぎだ。看護師目指してるのにそんなんじゃ、身体もたないぞ」

「でも、人のせいにするのはつらいよ」

 またチクリと、心が刺された。

 人のせいにするのはつらい。

 そんな言葉を聞くと、なおさら自分が情けなくなる。

 人間関係がうまくいかないのは自分の責任。ほんとうに俺はそう思っているのか?

 嘘だ。俺はいつも他人に責任をもとめている。罪を押しつける同僚と理不尽に怒鳴る上司。俺は何も悪いことはしていないし、恨みを買うようなこともしていないのに。そう言って、うまくいかないのは一緒に働く人間のせいだといつも思ってるじゃないか……。悪いのは理不尽を与えるあいつらだと……。

「自分のせいだって思えば、悪いところは直せるじゃない」

「……それがほんとうに自分のせいなら、だろ。彩香は背負わなくてもいい責任を背負いすぎだ」

「ありがとう。心配してくれて」

「……あたりまえだろ」

 そして分かれ道に差しかかる。

「今日も手伝いか?」

「うん」

「そっか。がんばれよ」

「ありがと。優もバイト、しっかりね」

 その応援はありがたくもあり、つらくもあった。いまさら自分を見直し、しっかりしたところで何ができるというのか。

 答えは、まったくわからなかった。


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