きみと出会ってかわったこと (6)


 回想終了。悪い夢だった。

「夢じゃないんだけど!」

「わっ!」

 平日の朝。さわやかな日差しが差しこむ自室のなかに、見慣れない少女がいる。彼女は異形の存在にしてはあまりに不似合いな淡いピンク色のチェックの柄のパジャマを着ていて、まるで重力を感じさせない空気そのもののようにふよふよと浮いている。

 ……うぁ、ホントに夢じゃない。

 どんよりした気分になる。しかも昨晩は、泥のついた服を着たまま寝てしまったからシーツもよごれている。そのうえ傷の手当ても何もしてなくて、まだ腕と足がヒリヒリする。身体に感じる痛みと目に見える証拠のひとつひとつが、昨夜起きた出来事が夢であるという可能性を完全につぶしていた。

 そして何より、目のまえのこいつ。ひょっとして学校にまでついてくる気だろうか。

「ちょっと、まだ信じてないの~? それとも寝ぼけてるだけ? あたしはこうして目の前にいるんだよー?」

「…………」

 話しづらい。昨日の眠る直前のことを思い出すとわずかな恐怖が込みあげてきて、まともに話せない。こいつがふざけた明るい調子なら、それに合わせるべきだろうか。

 俺は寝起きでまだ覚醒していない頭を必死に回転させ、一度だけ深呼吸をして心のスイッチを入れるよう藻掻もがいた。

「おーい? あたしが見えてるー? 死神少女はここにいるよー?」

「……いやでも、おまえの外見、人間そのものだし」

「だから何さ。死神は死神だよ。あと『おまえ』じゃない。あたしの呼び名も覚えてるー?」

「……覚えてるよ」

 悪い夢だと思いたくなる昨夜の出来事はすべて現実で、今も死神少女は……茅野明里は、俺の目のまえにいる。

 妙に明るくて、だけど自分は死神だとか理不尽を与えることができるとか訳のわからないことを言いだして、そのうえ俺に自分の力を使えと要求してくる変なヤツ。

 サイコキネシスやポルターガイスト現象なんてバカらしいと思っていたが、こいつを見ているとそうした超常現象はあるんだと信じざるをえない。こうして浮いているのを見せつけられては、とくに。



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