ひとちがい #11
アンコールを含めて約一時間半のライヴが終わり、場内の興奮が冷めやらぬ中、叶は足早にホールから出て軽く頭を振った。最後方に居たにも関わらず、ステージの両脇に設置された大型スピーカーから弾き出される
グッズ販売のテーブルの前を横切って階段を上ると、外には完全に夜の
周囲から人影が
「待たせたね」
夜なのにサングラスをかけたままのビリーが、叶に声をかけた。
「いや。こちらこそ、せっかくの打ち上げなのに済まん」
叶の返答に頷くと、ビリーは狩野を促して言った。
「さぁ、探偵さんに何でも話してやんなよ」
「はい、すみません」
「悪いな。ここじゃ何だから、場所変えよう」
「あ、じゃあ俺、店知ってるから」
そう言うなり、狩野はスタッフ達とは反対方向に歩き出した。叶は肩をすくめると、缶コーヒーを飲み干して空き容器入れに放り込み、狩野の後について歩き出した。
案内されたのは、
「なかなか
叶が店内を見回しながら言うと、狩野は
「前よく来てたんだ」
そこへ、女性店員がおしぼりと突き出しをふたつずつ運んで来て、狩野に
「いらっしゃいませ、お久しぶりです」
「ああ」
ぶっきらぼうに返事しておしぼりを受け取った狩野は、テーブルの脇に置かれたメニューも見ずに言った。
「ビール。あんたもビールでいい?」
問いかけられた叶は、苦笑して答えた。
「いや、オレ車なんだ、烏龍茶くれる?」
「かしこまりました」
前掛けのポケットから取り出した伝票に注文を書きつけると、店員は軽く会釈して離れた。叶はテーブルの隅に置いてあった
「ライヴ、お疲れさん」
「どうも」
狩野もジョッキを持って応じ、ふたりは同時にひと口飲んだ。叶は壁の高い位置に無数に貼られた
「さて、改めて訊くが、キミの知り合いに左利きの元ギタリスト、居るね?」
狩野は暫く目を泳がせていたが、ビールをもうひと口飲んで咳払いすると、
「ああ。ひとりだけ」
「誰だ?」
叶は
「
「相棒」
叶が繰り返すと、狩野は無言で頷いてジョッキを傾けた。その顔には、怒りとも悲しみともつかない感情が
「美味いな」
叶が思わずこぼすと、狩野はほんの少しだけ口角を吊り上げ、焼き鳥に手を伸ばした。
一本を平らげた所で、叶が烏龍茶をひと口飲んでから問いかけた。
「相棒って事は、コンビ組んで音楽やってたのか?」
狩野は鶏肉を
「あいつとは、高校の
「で、路上ライヴ辺りから始めたのか」
「ああ、『DOUBLAS』ってユニット名つけて。あいつが考えたんだけど、理由は知らない。俺はユニット名とか別にこだわり無かったし」
叶は頷きつつカレーポテトを口に運び、想定外の辛さに顔を顰めて烏龍茶を飲んだ。その一方で、狩野が店員を呼んでカツ閉じ煮を注文した。
「で、その田中忍とどうして
額に噴き出した汗をおしぼりで拭いながら、叶が訊いた。狩野はジョッキに伸ばしかけた手を止め、己の手元を
「あいつは、
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます