ひとちがい #9
カレーライスを完食し、付け合わせのコーヒーを
優美子と交際していた狩野リョウは左利きで右手の指先が硬い、だがSNS等の狩野リョウは右利き、ふたりが別人なのは明らかだが、いくら同姓同名でも名前の表記まで全く同じなのはさすがに奇妙だ。
ふたりの狩野リョウの間には何らかの関係があるのではないかと踏んだ叶は、駐車場に停めたバンデン・プラに乗り込むと改めて『狩野リョウ』の検索をかけ、活動スケジュールを調べた。すると、右利きの狩野リョウは現在『RANKO』と言う女性ミュージシャンのバックバンドに参加しているらしく、今夜は七時半から
「上手く行けば本番前に着くか」
独りごちると、叶はバンデン・プラを駐車場から出した。
一時間近く走って、ライヴハウスの最寄り駅まで
何度か道を間違えつつ、叶は
半開きの扉を押し開けて叶がロビーに身体を
「すいません、まだ開場時間じゃないんスけど」
叶は微笑を作って軽く頭を下げ、身分証を示して来意を告げた。
「ちょっと狩野リョウさんに会いたいんだけど」
スタッフは表情を変えずに
「あそこっス」
スタッフが指し示した先で、他のバンドメンバーに混じって
「狩野、リョウさん?」
叶が声をかけると、狩野は手を止めて
「そうだけど、あんた誰?」
叶は先程と同様に身分証を見せて名乗った。
「実は、オレも叶って言うんだ。漢字は違うけど」
狩野は身分証を見て二、三度頷いてから更に
「探偵さんが何の用? もうすぐリハ始めっから短めにしてくれる?」
素っ気無い態度に眉根を上げつつ、叶は質問した。
「アンタ、『Pairingtact』って婚活アプリやってる?」
「婚活? いや」
狩野はにべもなく答えた。叶にとっては想定内の返答だったので、すぐに次の質問を
「そう、じゃあ、アンタの知り合いか友人に、左利きでギターか何かやってる人居る?」
その
「知ってるね? 実は――」
「知らない!」
叶の質問を大声で
「オイ、待てよ」
追いかけようとした叶の前に、タンクトップにカーゴパンツという出で立ちでエレキベースを肩から
「何だよお前、これからリハなんだよ邪魔すんな」
「アンタに関係無い、どいてくれ」
叶が言い返すと、
「何だとてめぇ」
だが叶は迫って来る男の両手を
「やめろ」
「ビリーさん」
男が一瞬
「探偵さん、だっけ? 何調べてるか知らんけど、ここは一旦引いてくれないか? リョウには後で必ず話をさせるから」
「それは構わんが、アンタは心当たりあるのかい?」
叶が訊き返すと、ビリーは難しい顔で答えた。
「知ってるっちゃ知ってるが、俺達があんまりいい加減な事
ビリーに頭を下げられ、叶は引き下がるしか無かった。
「判った。外で待ってる」
叶も頭を下げ、ステージを下りた。
《続く》
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