ひとちがい #4
「ええ、居るけど、どうして?」
莉杏に戸惑いを
「あ、ああ、ここを紹介してくれた人から聞いたんだ、良い娘だったってね」
「そう」
如何にも当たり
「莉杏さん、御指名です」
「あ、は〜い」
声のトーンを上げて返事した莉杏が、立ち上がりざま叶を見下ろして言った。
「じゃ、失礼しま〜す、あ、代わりにアミリちゃんを呼んでおきますね」
「ありがとう」
叶がグラスを持ち上げつつ礼を述べると、莉杏は笑顔で軽く会釈して指名客の待つボックス席へ向かった。残った春奈に水割りのお代わりを作ってもらっていると、叶達のボックス席にひとりの
「はじめまして、アミリです」
挨拶の声に反応して顔を上げた叶は、現れたアミリの顔を見て小さく溜息を吐いた。
漆黒の長髪をハーフアップにして、
この娘は、麻美じゃない。
完全な人違いだ。アイツ、曖昧な記憶で適当な事言いやがって。
急に押し黙った叶に、春奈が心配顔で尋ねた。
「お客さん、どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもない」
叶は慌てて誤魔化すと、お代わりの水割りをひと口飲んでからアミリを席に促した。
「失礼します」
上品な物腰で、アミリが先程まで莉杏が座っていた位置に腰を下ろす。光沢のある
「改めて、御指名ありがとうございます」
「え? あ、ああ」
アミリの口から『御指名』と言う言葉が飛び出した事に戸惑いながら、叶は店員に新たなグラスを要求した。指名料はいくらなのかと思いを
「お客さんは、どうして私を?」
「ああ、ここを紹介してくれた人から聞いてね」
つい先程と同じ答を返してから、叶は己のボキャブラリーの少なさとアドリブの下手さを呪ったが、
アミリは叶の通り一遍な返答を気にする風でもなく、涼しい顔で水割りを喉に流し込んでいた。
小一時間程が経過した頃、酒が回ったのを自覚した叶はアミリと春奈に
入念に紙幣を数えて財布を戻すと、叶は大きく息を吐いた。
「今更ジタバタしても仕方無い。足りなかったら土下座でも何でもしてツケてもらうさ」
覚悟を決めた叶は、改めて用を足してトイレを出た。
叶がボックス席に戻ると、最初に会った男性店員が跪いて叶に伝票を挟んだバインダーを差し出して告げた。
「叶様、こちらがお会計でございます。それと」
店員は一旦言葉を切ると、バインダーから黒いプラスティック製のカードを取って示した。
「こちら、当店の会員証でございます。今後はこちらを提示して頂ければ入店できます」
真面目な顔を作ってカードとバインダーを受け取った叶は、周囲に気取られない様に生唾を飲み込んでから、ゆっくりとバインダーを開けて伝票を見た。幸い、現在の叶の所持金でギリギリ
溜息混じりに財布から紙幣を取り出し、バインダーに挟んで店員に手渡した。
「釣りは要らない、取っといてくれ」
精一杯の強がりを披露した叶に、店員は
戻って来た店員から領収書を受け取ると、叶は席を立ってアミリと春奈に向かって声をかけた。
「今日はありがとう」
「いいえ〜、また
エレベーターを降りて外の風に当たった瞬間、叶の胸に言い知れぬ
結局、無駄足に終わった。
今までに何度か麻美らしき女性の目撃情報を耳にしては、その度に落胆して来たが、今回は妙に
腕時計を見ると、午前零時近かった。
「もうこんな時間か、電車あるか?」
「貴方、カノウって名前なの?」
呼び止められた叶が振り返ると、ドレスの上に灰色のピーコートを羽織ったアミリが居た。その表情は、真剣そのものだった。
「そうだけど?」
「捕まえた!」
「は?」
叶が困惑する間に、アミリは叶の右肘を押さえてコントロールし、腕を背中側に
「
突如として関節を
《続く》
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