ブラッド・ライン #19
次に三人は、若者向けのアパレルショップが多く入るファッションビルに入った。玲奈といのりが手を繋いで様々なショップを見て回るのを、叶はやや後方から眩しそうに見ていた。以前、玲奈のボディガードをしていた時もこの様な場所を訪れた事があるが、自分の場違い感は相変わらずだ、と叶は自覚した。
とあるアクセサリーショップに立ち寄った際に、いのりが玲奈を出入口付近に待たせて店の奥へ入って行った。叶と玲奈が心配そうに店内を覗き込む間に、小さな紙袋を手にしたいのりが戻って来た。
「何それ?」
玲奈に尋ねられたいのりが、微笑しながらその場で袋を開けて、中からシルバーのペアリングを取り出して示した。
「これ、ひとつあげる」
「え、本当に? やったぁ! 嬉しい〜ありがとういのりさん!」
リングを受け取った玲奈は人目も
「へっへ〜いいだろアニキ〜、貰っちゃったぁ!」
「良かったな玲奈」
叶が笑顔で返すと、玲奈も満面の笑みで頷き、早速己の指に
「ちょっと、トイレ行って来るね」
小走りにトイレに向かった玲奈を見送るいのりに、叶が礼を述べた。
「ありがとう、いのりちゃん」
「いえ、今日初めて会ったのに凄く良くしてくれて、何かお返ししたくなっちゃって」
答えたいのりが、もうひとつのリングを嵌めながら言った。
「私、ひとりっ子で、ずっと兄弟欲しかったな、って思ってたんですけど、何だか玲奈ちゃんが妹みたいに思えて来て」
「そう、アイツもひとりっ子だから、同じ様な気持ちかもね」
叶が言うと、いのりは心底嬉しそうに微笑んだ。
数分後、玲奈がトイレから戻って来た。早速いのりと手を繋ぐ。先程のいのりの言葉を聞いたからか、叶の目にもふたりが本当の姉妹の様に見えて来た。
「それで、次は何処行くんだ?」
叶が尋ねると、玲奈は腕時計に目を落としてから答えた。
「そろそろ晩ご飯かな、って事はやっぱりあそこでしょ!」
玲奈の意図を
ビルを出ると、外はかなり陽が傾いて薄暗くなっていた。叶達は駐車場に戻ってバンデン・プラを出し、繁華街を抜け出した。後部座席で、いのりが玲奈に問いかけた。
「ねぇ、何処に行くの?」
「ん〜? あのねぇ、アニキが教えてくれたんだけど、ビーフシチューがとーっても美味しい所!」
目を輝かせて答える玲奈を見て、いのりも期待値を上げているらしい。叶はバックミラーを見て微笑を漏らした。
三十分近く走って、叶はバンデン・プラをコインパーキングに入れた。空きレーンで停車するなり、玲奈は勝手にドアのロックを解除して、いのりの手を引いて車外に出た。
「先行ってるね〜!」
捨て台詞を残して、玲奈はいのりと共にコインパーキングを出た。
「ったく、せっかちな奴」
ボヤきつつ運転席を出た叶は、ふたりを追いかけて『レストラン&バー WINDY』に入った。既にふたりはウェイトレスの案内で奥の四人掛けのテーブルに陣取っていた。「アニキ、早く!」と手招きする玲奈に頷きかけると、叶はキッチンで腕を振るう店主の
「
「いらっしゃい、あのお嬢ちゃんと一緒に居る子、何だ?」
風間の質問に、叶は苦笑いして答える。
「いや、久々にオレ、ボディガードしてまして」
「ほぉ、つまり仕事中って事か」
「あ、でも今日来たのは玲奈がここで晩メシ食いたいって言うもんで」
叶が弁解すると、風間は口角を吊り上げた。
「おお、そりゃ嬉しいね。選んでもらえて光栄だ」
叶は風間に会釈して、ふたりの待つテーブルに行った。玲奈は早くも最初に出された水を半分以上飲んでしまっていた。
「遅いよアニキ、もう頼んじゃったよ、ビーフシチュー三人分!」
「そりゃ済まんな」
軽く受け流して着席した叶の前に、ウェイトレスが水の入ったグラスを置いた。叶は礼を述べて水をひと口飲んだ。玲奈の隣に座るいのりが、一度振り返って風間を見てから叶に訊いた。
「探偵さん、あの方とお知り合いなんですか?」
「ああ。風さんには前から色々世話になっててね、オレの仕事に何度も協力してもらってるんだ」
横から玲奈が口を挟む。
「あのね、風さんって昔暴走族だったんだって。それで、暴走族辞めた後に白バイ警官になったらしいよ!」
「そうなの?」
目を丸くしたいのりが再び風間を見た。その時、丁度目が合った風間がいのりに向かってウィンクした。途端に、いのりが顔を赤らめて顔を戻した。以前、玲奈も同じ様な事をしていたのを思い出して叶が苦笑していると、ウェイトレスがビーフシチューを運んで来た。
「来たぁ!」
玲奈が歓声を上げ、他の客の視線を集める。たまらず叶が「オイ!」と注意するが、玲奈はどこ吹く風でシチューを受け取り、目を閉じて立ち上る匂いを
「さ、いのりさん、食べて!」
玲奈に勧められるままスプーンを取ったいのりが、叶に向かって告げた。
「じゃ、お先にいただきます」
叶が頷くと同時に、玲奈が「いっただっきま〜す」と声を上げてスプーンを使った。つられる様にスプーンを取ってシチューを口に運んだいのりの両目が、再び見開かれた。
「美味しい」
思わずこぼれたいのりの感想に、玲奈が反応した。
「でしょでしょ? ここのビーフシチューは絶品なんだから!」
叶はいのりの反応を喜びつつ、遅れて到着した自分のシチューを味わった。
《続く》
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