ブラッド・ライン #8
「私、今この部屋にひとりで暮らしているんです。おかしいと思いますよね? こんな、2LDKにひとりで住んで、しかも音大に通ってるなんて。CDショップでアルバイトしてますけど、それじゃ全然
「つまり、君はその足ながおじさんから援助を受けてるって事?」
いのりはマグカップを口に運びつつ頷いた。
「私が、と言うより、私の母が、ですけど。私が足ながおじさんの事を知ったのは、母が亡くなる直前でした」
「お母さんは、いつ亡くなったの?」
「去年です。過労で倒れて、そのまま。もうすぐ一周忌です」
いのりの表情に、陰が差した。叶は少し
「お父さんは?」
いのりは無言でかぶりを振った。先に亡くなったのかと思った叶が謝罪しかけたのを遮り、いのりが告白した。
「知らないんです、父を。母も教えてくれませんでした」
「それで、足ながおじさんを探し出したら、君はどうしたいの?」
「私、訊きたいんです。何で母や私を助けてくれるのか、母とはどう言う関係なのか、それと――」
途中で言い
「君のお父さん、なのか?」
「はい。もし、足ながおじさんが男の人だったら、ですけど」
いのりの返答を聞いた叶は、難しい顔でマグカップを口に運んだ。
いのりの母親が死ぬ直前までその存在をいのりに知らせなかったと言う事は、少なくとも足ながおじさんを好意的に思ってはいなかった筈だ。とすると、母親は足ながおじさんに関する手掛かりを一切残していないだろう。現在のいのりとの接点も、援助金の振込記録くらいしか無いと思われる。一介の探偵の力では、金の振込元を
「駄目、ですか?」
「あ、いや、そんな事無いよ」
叶は慌てて笑顔を作りながら否定すると、残りの茶を飲み干して言った。
「判った。何とかやってみるよ」
「本当ですか? あ、ありがとうございます」
少しだけ頬を
「じゃあ、オレはこれで失礼するけど、君は暫く外に出ない方がいい。いつまた危険な目に遭うか判らないからね。誰か
「あ、はい」
後から立ち上がったいのりが、
「何かあったら、連絡してな」
「判りました」
心細そうないのりの様子に後ろ髪を引かれながら、叶は部屋を後にした。
一度事務所に戻った叶は、
スマートフォンのナビアプリを駆使して、繁華街の外れにある雑居ビルの近くに到着した。幸い、すぐ
四階に上がり、
『はい、どちら様でしょうか?』
「叶と言います。ご依頼の件で朝見先生にお話があります」
叶が答えると、相手から想定通りの質問が来た。
『失礼ですが、アポイントはおありでしょうか?』
「急ぎの用なんだ、とにかく先生に会わせてくれ」
食い下がる叶に対して、女性はやや間を空けて言った。
「申し訳ございませんが、先生は現在クライアントと打ち合わせの為に席を外しておりまして」
嘘か本当か計りかねたが、叶は相手の
「丁度いい。アンタに訊きたい事がある、いのりちゃんの事でな」
瑠璃香は一瞬表情を
「判りました。外で話しましょう」
言い終えると、瑠璃香は叶の
《続く》
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