ブラッド・ライン #2
開け放った扉の向こうを見た叶の表情が、
目の前に立っていたのは、ショートカットの黒髪に濃い紫のパンツスーツを着てショルダーバッグを提げた、およそ麻美とは似ても似つかない外見の、三十代後半くらいと
「あ、失礼、えっとアナタが」
叶の言葉に割り込ませて、女性が言った。
「ええ、午前中にお電話を差し上げた弁護士の
瑠璃香が
「改めて、探偵の叶です」
瑠璃香はふたりの間を
「で、弁護士さんがオレに何を依頼したいんです? 言っときますが汚れ仕事の肩代わりならお断りですよ」
叶の嫌味を含んだ問いに、瑠璃香は動じる事無く返した。
「実は、ある方の身辺調査をお願いしたいのです」
言い終えると同時に、瑠璃香がスマートフォンの画面を叶に向けた。映し出されているのは、十代後半から二十代前半くらいの若い女性の姿だった。画像の粒子が粗く見えるのはプリントした写真をスマートフォンで撮影した物か、さもなくば遠距離で撮った写真を拡大した所為か? いずれにせよ、撮られた側の許可は得ていない写真である事は明らかだ。
叶が質問しようと口を開きかけた時に、玄関扉を軽快にノックしてから桃子がコーヒーカップを二客乗せたトレーを持って入って来た。
「お待たせしましたぁ、コーヒーおふたつでぇ〜す!」
「ありがとう、桃ちゃん」
叶の礼に答えるでもなく応接テーブルに近づいた桃子が、いきなり瑠璃香の顔を
「えっ? な、何ですか?」
驚く瑠璃香の問いを無視して満足げに頷くと、素早く叶に目を転じた。思わず身体をのけ反らせる叶に、桃子が笑顔で言った。
「良かったわねぇ〜ともちん、美人の弁護士さんで。でもダメよ、今回はキチンとギャラ
「あ、いや桃ちゃん、まだ話はそこまで――」
「はいどぉぞ〜、ともちんの好みでお砂糖もミルクもありませんから、お口に合いますかどうか〜オホホホ」
叶の言葉を
「あ、すみません、彼女は下の喫茶店のママでして、その何と言うか、お
瑠璃香は
「彼女は
「音楽大学? じゃあ
叶の質問に、瑠璃香は目を泳がせて返した。
「それは、申し訳ないのですが私どもにも
「あ、そう。オレもたまに使うけど便利だよな、『守秘義務』って言葉」
叶が皮肉ると、瑠璃香の顔がやや
「期間は取り敢えず一週間。場合によっては延長もあり得ますが、お引き受け頂けますか?」
数秒、叶と瑠璃香の
「判った、引き受けよう。別に断る理由も無いし」
色良い返事に、瑠璃香も胸を
「ありがとうございます。では、こちらは手付金です」
瑠璃香がショルダーバッグから封筒を取り出して、テーブルに置いた。叶は何気無い
「では、彼女の写真とデータは後程メールでお渡し致します」
そう言って瑠璃香は立ち上がりかけ、思い出した様にコーヒーを口にした。
「
「だろ?」
同意して、叶もカップを口に運んだ。
《続く》
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