薔薇の証明 #6
一時間後、叶の姿は『レストラン&バー WINDY』にあった。いつも座るテーブル席ではなく、風間が調理を行うキッチンに近いカウンター席に陣取っている。ウェイトレスから受け取った水をひと口飲んでから、目の前で
「すみません風さん、さっきは中途半端に切っちゃって」
「まぁいいさ。それよりどんな依頼なんだ?」
風間が
「行方不明のサツカンを探してます」
「ほぉ」
「中野将人って言うんですが、六年前まで城西署の
風間は皿に盛ったシチューをカウンター前に置くと、「はい十番さん上がったよ」とウェイトレスに呼びかけてから叶を見て言った。
「材料に
「ありがとうございます」
片手で拝むポーズをしながら礼を述べる叶に、風間がビーフシチューを皿に盛って差し出した。
「はいお待ちどうさん」
叶は今度は両手を合わせて軽く頭を下げ、
「いただきます」
翌日、叶は再び『ホテルサンセットヒルズ』へ向かった。昨日の今日で組対二課に見つかる訳には行かないので、バンデン・プラは昨日とは違うコインパーキングに停めて、周囲に気を配りながら慎重にホテルに近づいた。当然ながら、
思案した叶が再び周囲を見回すと、ホテルの
出入口はガラス扉で、その横の壁もガラス張りになっているので、入る前から店内の様子は手に取る様に判った。叶は何気ない体を
ブレンドコーヒーを注文して、叶はホテルの出入口に目を向けた。どちらかと言うと、出て来る人の方が目立つ。
運ばれて来たコーヒーを啜りながら尚も観察していると、ホテルの正面から五、六メートル程離れた路上に銀色の車が停まっているのが見えた。ホテルの前の通りは片側一車線で、他に
暫く何事か話していた新田が、車から離れた。その直後に後部座席のドアが開き、男がふたり降りてホテル内へ入って行った。ふたりを見送った新田が銀色の車に戻ると黒い車は直進、新田の車は横道を利用して方向
叶が
「誰だ?」
『ご
叶は一瞬天を
「何か用か?」
『どうせまた、劉を監視してるんだろ?』
新田の指摘に少し眉を動かしたが、カマをかけられているかも知れないと思い直し、
「言ったろ、アンタ等の邪魔はしないって」
『お前にそのつもりは無くてもな、こっちからすりゃお前みたいなのにマル対の近くをうろつかれるだけで目障りなんだよ』
マル対とは、捜査対象者を表す警察の隠語である。
「フン、オレに言わせりゃアンタ等の方が目障りだぜ、アイツの警戒心が強くなっちまってホテルにカンヅメって事になりかねねぇ」
叶が言い返すと、新田が語気を強めた。
『黙れ、とにかくお前は大人しくしてろ。いいか、お前の事はもう仲間に伝えてあるからな。今度見つけたら
叶の反撃をシャットアウトする様に電話が切られた。舌打ちしてスマートフォンをしまうと、叶は二杯目のコーヒーをひと息に飲み干した。
一時間程
ホテルの前の通りに出ると、新田達の車が停まっていた辺りにバンデン・プラを停めて食事を続けた。すると、またもスマートフォンが振動した。今度は風間からの着信だった。
「叶です。早いッスね風さん」
明るめのトーンで喋った叶に対して、風間の
『おい、今回はヤバい匂いがプンプンするぞ』
「どういう事です?」
叶が戸惑い気味に訊くと、風間は
『お前さんが言った中野将人って警察官な、記録が
「え?」
パンを口に運ぼうとした叶の手が止まった。
『理由は判らん。
「あ、はい。ありがとうございます」
風間の
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます