薔薇の証明 #1
灰色の空から
郊外の寺院の中に広がる墓地の一角に、大きめの傘を差した
叶がここを訪れるのは、母親の一周忌以来だった。以前は父親の
「じゃ、また来るよ」
墓石に向かって告げると、叶は立ち上がって傍らの手桶を取り、歩き出した。
叶が墓地の出入口に差し掛かった時、不意に若い女性の声が
「パパ!」
その直後、叶の腰の辺りに後ろから何かがぶつかった。
「え?」
対応に困った叶が声を
「違う」
少女のリアクションに
「
叶が視線を移すと、髪に大分白いものが混じった六十歳台と
「おばあちゃん、パパじゃなかった」
「だから、違うって言ったじゃない。あ、ごめんなさいね、うちの孫が早合点したみたいで」
桜に一方の傘を差しかけながら謝る女性に、叶も愛想笑いと共に会釈する。だが桜の方は傘を受け取ろうともせずに俯いている。見かねた女性が注意した。
「ほら、桜ちゃんも謝って」
すると桜は、やや頬を
「ごめんなさい」
叶は笑顔で小さくかぶりを振ると、膝を折って桜と目の高さを合わせて問いかけた。
「何で、オレの事をパパだと思ったの?」
「え?」
「あ、あの――」
今度は桜と祖母が困惑した。叶はジャケットの内ポケットから名刺を一枚取り出して、ふたりに向けて提示した。
「オレ、こういうモンです。良かったら、話してみませんか?」
「探偵、さん?」
目を
「来て!」
「え、ちょ――」
叶の制止も聞かず、桜は掴んだ叶の腕を強く引いて元来た道を脇目も振らずに戻った。叶は何度も敷石に
叶が
「これ!」
真っ白な
「あの、その花を置いて行ったのが、桜ちゃんの父親だって言うんです」
祖母の説明に
二輪の花を突きつけて真剣な
「取り敢えず、ここじゃ何だから、場所変えようか」
《続く》
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