友情遊戯 #36

 大声の主は、何と西条だった。傍らには吉鷹も居る。驚いた叶が訊く。

「オマエ? どうしてここに?」

「そりゃあよ、昨日あんたに逃げられちまったから、今朝から事務所の近くで張ってたんだよ。アルファはバレるんで置いてきたがね。そしたらあんたが見張りのチンピラと追っかけっこ始めたもんだからびっくりしてな。ちょっと頭を働かせてあんたのバンプラ見張ってたら、あんじょうあんたが来たんで、慌ててタクシー拾ったって訳」

「そりゃ御苦労だったな」

「おかげで酷ぇ出費しゅっぴだぜ。後で請求せいきゅうすっからな」

「ふざけんな」

 西条の筋違いな要求に、叶の顔が思わず綻ぶ。西条の横から、吉鷹が声をかける。

「叶! 大丈夫か?」

「大丈夫な訳ねぇだろ」

 叶が悪態で返した所に、いつの間にか武藤の拳銃を拾った小泉が口を挟んだ。

「何者か知らんが、ついでに死んで貰うぞ」

 その側で、叶のパンチのダメージから回復した武藤が、ふらつきながら立ち上がった。

「クッソォ……やるじゃねぇか探偵」

 叶は西条と吉鷹を庇う位置に移動しながら返した。

「昔からパンチは得意なんだよ」

「ケッ……とにかく、もう終わりにするぞ」

 武藤が吐き捨てる様に言うと、何故か西条が半笑いで言い返した。

「あんた等さ、あんまりお喋りしない方がいいぜ」

「何だと?」

 訊いたのは小泉だった。西条は笑顔のまま吉鷹を肘でつついて促した。せわしなく頷いた吉鷹が、手に持っていた叶のスマートフォンを小泉に見せると、画面は通話状態になっていて、発信先は石橋と表示されていた。

「何?」

 画面を見た小泉が瞠目した。叶も横目で確認して、吉鷹に訊く。

「オマエ……どうして?」

「それが――」

 説明しかけた吉鷹を遮って、西条が喋り始めた。

「いや、外で待ってたら銃声が聞こえたもんで、百十番してからこの中入ったらこの人と会ってさ、あんたが石橋がどうのって言ったっつうから、代わりに電話してやったの」

「……ったく、変な所鼻が利くな。さすがハイエナ」

「お褒めにあずか光栄こうえいです」

 おどけて敬礼けいれいする西条に、叶は苦笑で返す。そこへ、スマートフォンから石橋の声が聞こえた。

『小泉さん、話は大体その吉鷹幸雄さんから聞きましたし、今の会話も聞かせて貰いました。今自分もそちらへ向かっていますが、取り敢えず今そこを包囲ほういしてる県警の方々に投降とうこうしてください』

「何という事だ……」

 俯いて歯噛みする小泉の手に、突然武藤が掴みかかった。

「お、お前何をする!?」

「うるせぇ!」

 喚きつつ小泉の手から拳銃を取り戻した武藤が、目を血走らせて叶達に銃口を向けた。

「糞が! こうなったら全員ブッ殺して――」

 言い終わる前に、西条の右脚が伸びて武藤の手首を蹴りつけていた。拳銃が吹っ飛び、武藤は手首を押さえてうずくまる。

「往生際が悪いんだよ」

 武藤に向かって言い放つ西条に、叶が振り返って言った。

「やるな、元サッカー部」

「え、何で知ってんの?」

 西条が問いかけた所へ、県警の警察官が雪崩なだれ込んで来た。諦めた小泉はかぶりを振って両手を挙げ、武藤は悔しそうに唾を吐いた。

「来たか……」

 安堵した叶の意識が、暗闇に落ちた。


《続く》


 

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