友情遊戯 #33
唸りを上げて襲いかかる吉鷹の拳を、叶はスウェーイングの要領で上半身を
「おらぁ!」
叶はバックステップして
「やめろ幸雄!」
「うるさい黙れ!」
しかし吉鷹は
「おれはなぁ叶、本当は熊谷保みたいなボクサーになりたかったんだ! それなのに親父が急に死んで、爺さんに外科医になれって命令されて、手を怪我するからってボクシングの
「そりゃ残念だったな」
叶が構えを解かずに返すと、吉鷹は唾を吐き出してから更に喚き立てた。
「あぁ残念だったさ! それでもおれは、おまえにおれの果たせなかった夢を託して、必死に勉強して爺さんの言う通りに國料大に入って、医者にもなった! それなのにおまえは、理由も明かさずに急に引退しちまった! おれは心底落胆したよ! おれの夢がまた消えちまったんだからな!」
「そいつは悪かったな」
「あぁ悪いね! その所為でおれの生きるモチベーションは下がる一方だったよ! それでもおれは大学を卒業して医者になって、國料大附属の外科に入る事ができた! おまえと違っておれは医者になる事を投げ出さなかったからな! それから一年経って、おれは初めてのオペをやる事になった。このオペを成功させれば、爺さんもおれを一人前だと認めてくれるかも知れない、そうしたら爺さんの病院がおれの物になる、下がりっ放しだったモチベーションが、超上がったよ!」
言い終わりに笑顔を見せた吉鷹だが、すぐに表情を強張らせて続けた。
「だけどなぁ、そのオペでおれはしょうもないミスをしちまった! おれは慌てたよ、だけどなぁ、オレの周りを囲んでた先輩連中はおれを積極的に助けようとしないで、半笑いで見てやがったんだ! あいつ等はおれの爺さんが大学の名誉教授だから普段は持ち上げてたが、腹の中では馬鹿にしてやがったんだ! あいつ等がおれを助けなかった所為で患者は死んだ! そうだ、断じておれの所為じゃない! あいつはそれをいちいちほじくり返してネチネチとおれを
ひと
「甘えるんじゃねぇ! 責任
気圧された吉鷹が息を飲んで叶を見返した。叶は吉鷹の拳を掴んだ左掌に力をこめながら言った。
「おまえは逃げてるだけだ! 爺さんに怒られるのが怖くて自分の本当にやりたい事を諦めて、勝手にオレに期待しといてオレが引退したら勝手に落ち込んで、手術の時も勝手に周りに期待して、勝手に裏切られたと思って失敗の責任を
掴まれた拳の痛みに顔を歪めていた吉鷹が、空いた左手を叶の顔面へ
「
この言葉が、叶の
「オレにとって麻美は生き
「な……に」
苦悶の表情で見上げる吉鷹に、叶は声のトーンを落として言った。
「居るだろ、愛美が」
吉鷹の両目が、大きく見開かれた。
《続く》
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