友情遊戯 #26
叶がタクシーで向かったのは、『WINDY』近くのコインパーキングだった。料金を支払ってタクシーを降りた叶に、品のない声がかかった。
「おいコラァ! てめぇ何処行ってやがった
!?」
叶が振り返ると、お目付役が何故か汗びっしょりの状態で歩み寄って来た。その目は異常に
「何だオマエ? サウナにでも入ってたのか?」
叶が小馬鹿にした様に訊くと、お目付役は
「てめぇを探してたんだろぉがぁ! 勝手にフラフラどっか行きやがって、オヤジからしっかり監視しとけって言われてるおれの身にもなれってんだよコラァ!」
オヤジとは武藤の事だろう、その怒声の底に武藤に対する恐怖があるのは叶にもよく判った。
「あーハイハイ悪かったよ、んじゃ帰るか」
叶はお目付役をあしらって
「おい! 今から車取ってくっからな、逃げんなよコラァ!」
叶は苦笑しつつ首を
戻って来た叶がバンデン・プラを月極駐車場に入れると、お目付役のメルセデスは駐車場を通り過ぎて先へ進んだ。最初に停めていた、事務所を監視できる位置に行ったのだろう。
叶はバンデン・プラから降りてドアに施錠し、やや足を早めて事務所へ向かった。途中でお目付役のメルセデスを見つけたので運転席に手を振ったが、特にリアクションは無かった。
「幸雄の部屋で大分時間使っちまったな」
独りごちると、叶はもう一度お目付役を一瞥してから『カメリア』に入った。出迎えた桃子が、メルセデスを控えめに指差して叶に尋ねた。
「ねぇともち~ん、あの車の人何なの~? ずっとともちんと一緒みたいじゃな~い」
叶は肩越しに振り返りながら言った。
「あ、アレ? オレのファンだって」
「えぇ~ウッソー!?」
驚く桃子にウィンクして、叶は奥のカウンターに陣取った。直後に、大悟が水の入ったグラスを出した。
「お疲れ様です。大変ですね叶さん」
「サンキュー。まぁ色々ね」
笑顔で受けた叶が水をひと口飲むと、横に桃子が寄って来てまた尋ねた。
「ねぇ、今ともちんがやってるの、この間の美人の依頼なんでしょ? あの女、一体何なの?」
「いや、それはちょっと事情があって――」
「ともちんには悪いけど、な~んか
叶の言葉を遮って勝手な
「痛っ!」
「もぉ! 何よともちん! 注文ならあたしにすればいいでしょ!」
桃子は頬を膨らませて叶を睨みつけたかと思うと、「もぉ知らない!」と言い残してカウンターの中へ入ってしまった。叶は溜息混じりに桃子の後ろ姿を見送ると、スマートフォンを取り出して検索を始めた。
食事を済ませた叶は一旦事務所に戻り、スーツからジャージに着替えてスポーツバッグを持ち、再び外へ出た。徒歩で月極駐車場へ向かおうとすると、例によってお目付役が運転席の窓を開けて顔を出した。
「おいてめぇ、今度は何処行くんだぁ!?」
「ジムだ、オレは
「ケッ、あぁそうかい」
叶の返答に、お目付役は興味無さそうにそっぽを向いた。それでも叶が離れるとメルセデスのエンジンをかけ始めた。
「
呟いた叶は、月極駐車場からバンデン・プラを出して『熊谷ボクシングジム』へ向かった。その真後ろに、お目付役のメルセデスがピッタリついて来る。
ジムの駐車スペースにバンデン・プラを停めた叶は、離れた所にメルセデスを停めたお目付役を手招きして呼んだ。
「あぁ? 何の用だてめぇ?」
「オマエさ、そのナリでその辺ウロウロされるとジムに迷惑なんだよ。ちょっと来い」
叶はお目付役の返事を待たずに首に腕を回して、ジムの中に連行した。多くの練習生がひしめくジム内に行き渡る声で、叶が言った。
「タモさ~ん、体験の方で~す!」
すると、奥で玲奈のサンドバッグ打ちを見ていた熊谷が、目を輝かせて振り向いた。
「おー友也! 体験だって!?」
「お、おいコラ、おれはボクシングやるなんてひと言も――」
「いいからいいから、外で煙草吸ってるより暇しねぇぞ」
お目付役の抗議を
《続く》
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