友情遊戯 #24

 叶は目を泳がせて口ごもったが、観念した様に溜息を吐いて答えた。

「吉鷹幸雄は、小学生の時の親友だった。もっともアイツは五年の時に転校して、それ以来会ってなかったがな」

「ほぉ~、それが何で今?」

「この間、オレの車が思い切りカマ掘られて、その時担ぎ込まれた『桜川病院』でオレをたまたま診たのがアイツだったんだ。名刺はその時渡した」

「へぇ~、凄ぇ偶然じゃんか」

 感心する西条を一瞥して無言で頷くと、叶はベッドに膝を乗せて本棚を探り始めた。その横に西条が腰を下ろし、何故か叶の名刺の皺を伸ばし始めた。

「で、オマエが追ってる医療ミスを起こした医者ってのが幸雄なんだな? ここをどうやってぎつけた?」

 叶の質問に、西条は微笑して答えた。

「言うかよ、蛇の道は蛇って奴さ。但し、その合鍵の出所を教えてくれるんなら答えないでもないけどな」

 西条の切り返しを舌打ちで受け流した叶が、本の隙間に挟まれた封筒を発見した。抜き出して中を覗くと、折り畳まれた紙が入っていた。西条が首だけをじ向けて訊く。

「何だそれ?」

「待ってろ」

 叶は西条を制して、封筒から紙を抜き出して広げた。直後、叶は瞠目して呟いた。

「これは……」

 紙の正体は、叶が梶山久志の自宅で見つけた、梶山信浩の死亡診断書のコピーだった。

「ん? 死亡診断書? 梶山?」

 横から覗き込んだ西条が、素っ頓狂な声を上げた。至近距離で大声を出されて顔をしかめつつ、叶が訊く。

「何だ? オマエ心当たりあるのか?」

 西条は上着のポケットから煙草を一本抜き出し、ライターで火を点けてから答えた。

「いや、吉鷹の身辺調べててな、今の、『桜川病院』だっけ? あそこの職員とか捕まえて聞き込みかけてたらさ、また良からぬ話が出たんだよ」

「何だ良からぬ話ってのは?」

 苛立ち混じりに先を促す叶をはぐらかす様にゆっくり煙草を吸い、たっぷり主流煙を吐き出してから西条が続けた。

「二週間かそこらか、そのくらい前に夜中に担ぎ込まれた急患を吉鷹が診て、応急処置だけして帰したらしいんだが、その後そいつがポックリっちまったんだと。それが確か、梶山とか」

「何だと?」

 叶は驚いて西条を見返し、再びコピーに目を落とした。

 西条の聞き込んだ事が事実なら、吉鷹は『桜川病院』でもミスを犯した事になる。そして、梶山久志はそのミスを追究して、更には吉鷹を脅迫していたのではないか? 吉鷹は梶山の脅迫に耐えかねて――

「おい、ともちん!」

 西条の呼びかけに、叶は我に返った。気づくと、手の中でコピーがくしゃくしゃになっていた。

「あ、あぁ、すまん」

 叶は半ばうわそらで謝りながら、コピーを封筒に戻した。

 それから、叶と西条は本棚の捜索を再開した。すると、今度は西条が吉鷹の日記帳を見つけた。叶は横目でチラリと見ただけで捜索を続けたが、中を見ていた西条が急に「あ!」と声を漏らしたので手を止めて尋ねた。

「何だ? 何か面白い事でも書いてあったか?」

「あぁ。己は滅茶苦茶めちゃくちゃ面白いけど、ともちんはどうかな?」

「はぁ?」

 西条の思わせぶりな物言いを訝りつつ、叶は西条が開いて見せた日記のページを覗き込んだ。そこに書かれていた文面は、確かに叶にとっては面白くないものだった。

『この間、久しぶりに叶に会った。事故って救急で来た。急にプロボクサーを辞めて何をやってるのかと思ったら、探偵なんかになってやがった。妹の為とか何とか言ってたが、つまらん奴だ。俺がなりたくてもなれなかったプロボクサーになったのに、こっちは俺の分も頑張って世界チャンピオンになってくれって思って応援してたのに、あいつはとんでもない馬鹿だった。』

 読み終えて言葉を失う叶に、西条が真顔で言った。

「随分な書かれようだな」

「幸雄……」

 叶は、それきり口を閉ざした。


《続く》


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