友情遊戯 #22

 返事にきゅうする叶に、風間はするど眼差まなざしを向けて告げた。

「こりゃ、ガンコロだ」

「ガンコロ?」

 叶がオウム返しに問うと、風間は一度店内を見回してから更に声をひそめて答えた。

「錠剤型の麻薬の事だ。尤もこいつは、大分混ぜ物入れてる様だがな」

「麻薬……」

 新たなキーワードを得た叶の脳がフル回転して、これまでの経緯いきさつとそれにともなう情報を整理し始めた。

 西条がマークしている、『桜川病院』在籍ざいせきの医者の過去の医療ミス疑惑。

 その『桜川病院』で吉鷹に罵声を浴びせていた梶山久志。

 行方不明の吉鷹を探す過程で知った、『桜川病院』からのモルヒネ盗難。

 吉鷹からの電話で駆けつけた公園で見つけた、梶山久志の死体。

 梶山久志の捜索を依頼して来た『滔星総業』の武藤涼介と梶山久志の『ビジネスパートナー』という関係。

 梶山久志の自宅で発見した錠剤型麻薬と、梶山信浩という男の死亡診断書。

 吉鷹の名前で発行されていた梶山信浩宛の院外処方箋。

 乱雑らんざつに散らばっていたパズルのピースが徐々に組み合わさる感触を得ると共に、叶の中の吉鷹への疑惑は限りなく黒に近づいた。

 叶は吉鷹の自宅の合鍵を見つめて、溜息混じりに呟いた。

「幸雄……」

 その面前に、突如出来たてのビーフシチューが飛び込んだ。

「うぉっ!?」

 驚いて首を引いた叶に、風間が笑顔で言った。

「ほら、まだ昼飯食ってないんだろ? 食ってけ、俺の奢りだ」

「え? あ、ありがとうございます!」

 風間の気遣いに感謝しつつ、叶は風間の差し出すスプーンを受け取ってシチューに差し込み、勢い良く口に運んだ。

「……あぁ、美味いッス」

 二十分ほどかけてシチューを堪能し、コーヒーを飲み干した叶は、手を合わせて丁寧に頭を下げてから、シチュー皿の下に一万円札を一枚忍ばせて風間に差し出した。

「ごちそう様でした。これは情報料ッス」

 風間は無言で頷いて受け取り、札を素早くエプロンのポケットに入れて食器を流しへ持って行った。

 戻って来た風間に、叶が尋ねた。

「あの、もうひとつ。組対の小泉ってデカ、ご存知ですか? 今朝ちょっとサツに引っ張られた時に会ったんスけど」

「小泉?」

 風間は首を傾げて暫く考え込んだ。答えを待つ叶がふと出入口に目を転じると、いつの間にかお目付役がすぐ側をうろついていた。

「やべっ」

「ん? どうした?」

 叶の異変に、風間が考えるのを止めて問いかけた。叶は出入口を指差して答えた。

「さっき言ったお目付役がそこに居るんスよ」

 叶の指を追った風間が、数回頷いて言った。

「判った、裏口から出ろ。その小泉ってデカの事は思い出したら連絡する」

「すみません、恩に着ます」

 叶は肩をすくめながら会釈して、風間の導きに応じてキッチンに入り、奥の通用口に取り付いた。

「風さん、じゃあまた」

 叶が振り返って告げると、風間は顔を店内に向けたまま左手でサムズアップした。

 静かに扉を開けて外へ出た叶は、表側をそっとのぞき見てお目付役の所在しょざいを確認し、足音を忍ばせて『WINDY』を離れ、通りでタクシーを拾った。


《続く》


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