友情遊戯 #16
カレーライスを胃に収め、セットのコーヒーを
「クソッ、あのヒゲ」
松木の髭面を思い出して悪態を吐いてから、叶は背もたれに身体を預けて天井を仰ぎ、考えを
死んでいた梶山という男の死亡推定時刻近くにかかって来た、幸雄からの電話。
公園に入ってからパトカーのサイレン音が聞こえるまでのタイムラグの短さ。
叶が知る事実からは、吉鷹が
考えれば考えるほど、叶の中で吉鷹への疑念が高まった。だが、この情報を警察に開示する事は、叶の探偵としての
それ以前に、叶自身が吉鷹の犯行を信じたくなかった。かつての親友を疑いたくない気持ちが、叶を迷わせていた。
そこへ、玄関の扉を強くノックする音が聞こえた。
「……誰だよ」
独りごちてから、叶はのろい動きで立ち上がり、麻美の顔写真入りのチラシと相対する様に玄関前に立った。
「どちら様?」
叶の呼びかけに、低くざらついた男の声が答えた。
「ちょっと頼みがありまして」
依頼か、と口の中で呟いてから、叶はドアノブに手をかけて
玄関に居たのは、四十歳前後と見られる
「どうぞ」
男は軽く頷き、光沢のあるエナメルの靴を鳴らして事務所に足を踏み入れた。後ろから若者ふたりが入って来ようとするが、男が振り返って刺す様な口調で告げた。
「お前等外で待ってろ」
「え、いや、しかし」
若者のひとりが抗弁しようとするが、男の眼差しに射すくめられ、鳩の様に首を動かして後ずさった。叶はふたりに一瞥をくれてから扉を閉め、スマートフォンを取り出しながら男に尋ねた。
「コーヒーでいいか?」
「あ? ああ」
男はぶっきらぼうに答えてソファに座り、叶に断りもせずに煙草を取り出して火を点けた。その背中に叶が告げる。
「悪いがここに灰皿は無いぜ」
「心配すんな」
男は返事と共にジャケットのポケットから携帯用吸い殻入れを抜き出して示した。かぶりを振った叶は『カメリア』に電話をかけて、コーヒーをふたつ注文して電話を切り、男の対面に座って告げた。
「すまんね、ここには
「構わんよ」
男は主流煙と共に応え、吸い殻入れに灰を落とした。
程なくして玄関の扉がノックされ、直後に桃子がコーヒーカップを二客乗せたトレーを持って入って来た。だがいつもの元気が無い。
「ともちんお待たせ」
「ありがとう桃ちゃん、どうした? 元気無いな」
妙に外を気にしながら叶に近づいた桃子が、男をチラリと見てから言った。
「だって、表に物凄く恐そうな男の人が二、三人居て、あたし
すると、男が顔を上げて桃子に謝罪した。
「あぁ、それはウチのモンが失礼を。申し訳ない」
「あ、いえ、いいんですよ」
桃子は
「……美味いな」
男の感想に安堵した叶は、ジャケットの内ポケットから名刺を取り出してテーブルに置いた。
「改めて、探偵の叶です」
名刺を見た男が、おもむろにジャケットの前を開いた。その拍子に、叶の視界に見慣れない
シャツとスラックスの境目に、黒光りする
男は拳銃など存在しないかの様にごく自然に内ポケットに手を入れ、名刺を出した。
「俺はこういうモンだ」
叶は男の動きを警戒しつつ、テーブルの上の名刺を見下ろした。『
「で、どういった依頼で?」
ゆっくりと名刺をつまみ上げながら叶が訊くと、武藤は次に別のポケットから一枚の写真を出してテーブルに置いた。写っていたのは、叶が『山西公園』で遭遇した男、つまり今回の被害者である梶山だった。
「!」
叶は奥歯を噛み締めて、辛うじて表情を保った。武藤は煙草を吸い殻入れに押し込んでから、低い声で言った。
「この男を殺した奴を、探し出してもらいたい」
《続く》
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