友情遊戯 #15
半開きの扉を閉めた松木は、
「
「何?」
叶より先に反応した小泉が、素早く椅子から腰を上げて取調室を出た。その後ろ姿を訝しげに見送ってから、叶は松木を見据えつつゆっくり立ち上がった。
「何が任意同行だよ、完全に容疑者扱いだったじゃねぇか」
「うるさい、さっさと帰れよクソ探偵!」
松木の
「おぉ叶君、すまなかったね」
叶に気づいた石橋が声をかけた直後、小泉が叶を一瞥してその場を離れた。叶は小泉を気にしながら、石橋に近寄った。
「何でこうもアンタに会うんだ? こっちは顔も見たくねぇってのに」
「仕方ない、自分も仕事だからね」
当たり
「で、ほぼ容疑者だったオレが何で急に解放されたんだ?」
「ああ、今度のヤマでは、自分は
当然だ、と思うと同時に、叶は自身が全く意識していなかった防犯カメラの存在と、その映像を
「さっきも小泉ってデカに言ったが、オレが見つけた時にはもう死んでたからな。で、死亡推定時刻は何時頃なんだ?」
叶の質問に、石橋は少し考えてから答えた。
「まぁ、このくらいはいいか。鑑識によれば、午後九時から十時の間だそうだ」
叶の脳裏に、吉鷹から電話がかかって来た時間が過り、同時に良くない想像が働いた。
「どうした?」
突然の沈黙を訝しんだ石橋の呼びかけに、叶は我に返った。
「いや、何でもねぇ」
曖昧にその場を取り繕うと、叶は石橋の脇を抜けて歩き出した。後ろから石橋が「あ、送るよ」と声をかけたが、叶は右手を挙げて左右に振りながら返した。
「断る、これ以上アンタに借りを作りたくねぇからな」
だが石橋は叶に駆け寄り、身を屈めて小声で告げた。
「小泉さんには気をつけた方がいい」
「何?」
叶が思わず足を止めて訊き返すと、石橋は一度周囲を見回してから答えた。
「自分は、小泉さんとは所轄の
「だから何だ?」
「小泉さんは、まだ君が事件に関係してると思ってるみたいだから、今後何か仕掛けて来るかも知れないよ」
「ご忠告どうも。じゃあな」
叶は
池中署を出た叶は、タクシーを拾って事務所へ戻った。腕時計に目を落とすと、既に午前十時近かった。ロードワーク用のジャージ姿からいつものスーツに着替えて、事務所を出て階段を下り、『喫茶 カメリア』に入った。
「あぁ~ともち~ん! 良かったぁ~心配したのよ~!」
入って来た叶に、ピンクのメイド服に身を固めた桃子が駆け寄って来た。
「おっ、ど、どうしたのママ、じゃなくて桃ちゃん?」
いつも座る店内奥のカウンター席へ歩を進めながら叶が尋ねると、桃子は眉を八の字にして答えた。
「だぁってぇ~、あたしが外のお掃除しようと思ったら、ともちんが怖そうな髭のおじさんと一緒にパトカーに乗ってどっか行っちゃったから、あたしもうビックリしちゃってぇ~、遂にともちんが何かやらかしちゃったのかと思って~」
「遂にって、まぁでも、心配かけてごめんな、桃ちゃん」
苦笑しながらスツールに腰を下ろした叶に、桃子がカウンターから水の入ったグラスを取って差し出しつつ笑顔で
「で、ご注文は? サンドイッチ盛り合わせでいい?」
「いや、カレーライス」
叶の答に、桃子が顔を
「依頼があったんだ……もしかしてこの間の幼馴染み?」
水を受け取って飲もうとした叶が、思わず水をこぼしそうになった。その反応を見た桃子が、目を細めて数回頷いた。
「あら~
「いや、だからそういうんじゃなかったから」
慌てて叶が否定するが、桃子は聞く耳を持たずにカウンターの奥へ引っ込んでしまった。
「参ったな」
苦笑して独りごちると、叶は改めて水をひと口啜った。
《続く》
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