友情遊戯 #14
翌朝、日課のロードワークを終えた叶が、いつもの様に事務所近くの
「何だようるせぇな」
小声で文句を言いながら、叶がペットボトルを片手に事務所へ引き上げようとすると、運転席のドアが開く音の直後にだみ声で呼びかけられた。
「おーい、ヘボ探偵」
叶は足を止めて、
覆面パトカーから降り立ったのは、今までに事件
「何だよ? 暇潰しの職質なら他当たってくれ」
叶が突き放す様に言うと、松木は目を輝かせて近寄って来た。
「そんなつれない事言うなよ叶~、おれとおまえの仲じゃねぇかよ」
叶は小声で「どんな仲だよ」と言ってから、ミネラルウォーターをひと口飲んで松木と
「もったいぶらずに用件を言え」
死体の事などおくびにも出さずに叶が言うと、松木はニヤけ面のまま言った。
「ちょっと訊きたい事があるんだ、署まで同行してくれ」
「ほぉ、なかなかまともなデカらしい口利くじゃねぇか、そりゃ任意か?」
叶が
「確かに任意ですが、拒否すると心証が悪くなりますよ」
この言葉で叶は直感した。間違いなく、
「判ったよ、そう教科書通りに言われちゃ拍子抜けだ」
叶はわざとらしくかぶりを振って、松木の横をすり抜けて覆面パトカーへ向かった。
「おぉ、今日は随分素直だな」
気を良くしたのか、松木が叶を小走りに追い越してパトカーの後部座席のドアに取り付き、オーバーな動きで開けて叶を促した。叶が松木を一瞥してから乗り込み、直後に松木が隣に陣取った。若手が運転席に収まり、覆面パトカーを発進させた。
叶が連れて来られたのは、昨夜死体と遭遇した『山西公園』に程近い、『警視庁
その反対側、松木の左後方に、松木よりも強面の四十代後半と思しき男が、
数秒の沈黙を、不敵な笑みを浮かべた松木が破った。
「叶、おまえ、
「梶山? 誰だそれ?」
叶が訊き返すと、松木は顔から笑みを消して机をひと叩きして声を荒らげた。
「とぼけんな! 夕べおまえが殺したホトケだろうが!」
「オレが殺した? 何か証拠でもあんのか?」
「おまえな、今の内に認めた方が身のためだぞ。夕べの十時頃、山西公園の中から慌てた様子で出て来るおまえを、第一発見者のカップルがバーッチリ見てるんだよ。モンタージュ見せようか?」
公園を出る時にぶつかりそうになったカップルの事を思い出し、叶は小さく首を振った。その様子を見て、叶が弱気になったと思ったのか、松木が
「それになぁ、ホトケの顔には殴られた跡が残ってたんだ。おまえ確か、元プロボクサーだよな? 得意のパンチで吹っ飛ばして、階段から落としたんだろ?」
松木が勝ち誇った顔で解説してくれたおかげで、叶は梶山という男が死に至った状況を、ほぼ正確に把握した。松木に気づかれない様に小さく二度頷いて、叶は松木に向かって身を乗り出して言った。
「オイ、元ボクサーじゃなくたって、人を殴って階段から落とすくらいできるだろ。もしかしてオマエ等、そんなテキトーな理由でオレを引っ張ったのか? そんな事だからこの世から
「何だと――」
「やめたまえ、松木君」
「叶友也さん、私は警視庁
小泉の口調は穏やかに聞こえるが、その根底には確固たる信念が感じられた。叶は居住まいを正して答えた。
「その梶山という男の事は本当に知らないし、オレが見つけた時には既に死んでいた」
「では何故、あんな時間にあの公園に行かれたのですか? あそこは
小泉の更なる問いに、叶は言葉を
叶の沈黙を怪しんだのか、小泉の目つきが鋭くなった。その時、取調室の扉が二度ノックされた。
「ん?」
小泉が叶から目を外して肩越しに扉の方を見た。すぐに松木が反応して、扉を少し開けて外へ顔を出した。数秒後、松木が
「な、何ですってぇ!?」
《続く》
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