友情遊戯 #6
二週間が
看護師の手を借りてゆっくりコルセットを外し、恐る恐る首を動かしてみたが、全く痛みは感じなかった。
「あぁ、良かった」
思わず
自由を取り戻した叶が、こぼれる笑顔を隠そうともせずに意気揚々と会計へ向かうと、出入口が何やら異様な雰囲気に支配されていた。会計を待つ患者達は皆、
「何だ?」
叶が眉間に皺を寄せて彼方を見ると、明らかにスジ者と判る
スジ者風はリノリウムの床に
叶はスジ者風を見送りつつ、吉鷹に歩み寄って声をかけた。
「オイ幸雄、今のは――」
だが吉鷹は叶を一瞥しただけで、足早に立ち去ってしまった。もうひとりの初老の男は、
「……何だアイツ?」
旧友の素っ気ない対応に不満を覚えながらも、叶は会計を済ませて病院を後にした。
叶が電車の駅に向かって歩き出すと、不意に後ろから呼びかけられた。
「よぉ、とーもちん」
「あぁ?」
からかう様な口調に、叶が苛立ちを隠さずに振り返ると、そこにはニヤけ面で煙草を
「何だ、ハイエナか」
あからさまに
西条とは、ある依頼を受けた時に知り合い、その際に依頼人と玲奈を助けてもらったが、基本的には好ましく思っていなかった。特ダネ狙いのトップ屋という、決して
「ちょちょちょ、ちょっと待てよ」
西条が慌てて叶の横に並びかけた。叶は心底嫌そうな顔で訊いた。
「何か用かよ?」
「いや、こんな所で会うなんて
「運命なんか感じなくていいぜ、迷惑だからな」
「そんなつれない事言うなよ、なぁ、何であの病院に居たの? 依頼か何か?」
叶の心情を慮る事無く食い下がる西条に、叶は思わず足を止めて声を荒らげた。
「うるっせぇな! オマエに関係ねぇだろ!?」
常人なら絶句してしまいそうな程の迫力を出した叶だったが、目の前のトップ屋は少し目を見開いたものの、
「いや、依頼とかじゃないんなら別にいいんだよ。つぅか、逆に己の
「何?」
西条の思わせぶりな物言いに苛立ちながらも、叶は少しだけ興味を持った。ハイエナの如くスクープの匂いを
「オマエ、あの病院に何かあるのか?」
「へっ、言う訳無いじゃん。あんた流に言うなら『
「ふざけるな!」
叶は更に
「オットー、暴力反対」
「寝言言ってんじゃねぇぞチンピラ、サッサと教えろ!」
本当に暴力に
「もぉ、しょーがねぇな。判ったよ、言うから手ぇ離せよ」
叶は鼻から大きく息を吐いて、西条の胸倉を掴んでいた左手を離した。西条は乱れた服装を整えると、上着のポケットから携帯用吸い殻入れを取り出して煙草を押し込み、ポケットに戻してから口を開いた。
「ある大学病院でな、以前に医療ミスで患者を死なせた医者が、ここに飛ばされたらしいんだよ」
「医療ミス?」
叶が訊き返すと、西条は新しい煙草を一本抜き出しながら頷いた。上着のポケットからオイルライターを取り出した所で、ふと手を止めて叶に告げた。
「今日車じゃないのか? なら送るよ、ついでに
西条が示した腕時計は、午前十一時四十分を差していた。叶は数秒思案してから、溜息混じりに応えた。
「OK。但し、オマエの
「仕方ねぇな」
《続く》
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