友情遊戯 #5
同級生からの突然の発表に、叶は
叶の
「幸雄とは、昔家が近所だったし、通ってた塾も一緒だったけど、付き合い始めたきっかけは、大学で再会したからなの」
「大学?」
「うん、
「なるほど。それにしても、昨夜の話なのにもう知ってるとは、まさか――」
納得した叶が新たな疑問を口にしかけた時、愛美が遮った。
「いや、違うの。今勤めてる病院ね、私の家の方が彼の家より近いのよ。だから、当直明けは決まってうちに来るのよ」
愛美の
「ハ~イお待たせともちん! たくさん食べてねっ! あ、その首じゃ食べ辛いでしょ~? 食べさせてあげよっか?」
フォークを取り上げて微笑む桃子に、叶は苦笑を向けて応えた。
「いや、大丈夫。自分で食えるから」
「あらそ~ぉ? じゃ、ごゆっくり~」
提案を断られた桃子は、持っていたフォークを叶の右手にねじ込んで、つまらなそうな顔で立ち去った。愛美が桃子の後ろ姿を見送りながら、叶に訊ねた。
「あの人、いつもあんな調子なの?」
「あ、あぁ。何か妙に気に入られちゃってな。元アイドルらしいんだけどさ、調子狂うよ」
「え? 元アイドル?」
今度は愛美が驚く番だった。叶は不自由な首で軽く頷いて続けた。
「あぁ、ただ本人に訊いても答えてくれないんだよ。マスターも話したがらないし」
「え? マスターって?」
瞠目した愛美が、更に質問する。叶は桃子が去ったカウンター裏を指差して言った。
「いつもあっちのキッチンに居るんだけど、桃ちゃんの
「え? 結婚してるの?」
愛美の目が更に大きく見開かれた。その驚きぶりを楽しむ様に見ながら、叶はナポリタンの皿を顔の高さまで持ち上げてフォークを刺した。
それからふたりは、小学校と中学校の頃の思い出話に花を咲かせた。叶はナポリタンを完食してコーヒーをもう一杯頼み、愛美もコーヒーをおかわりした。
盛り上がるふたりの傍らに、あからさまな営業スマイルを浮かべた桃子が寄って来て、えらく
「ともち~ん、お楽しみの所申し訳ないんだけどぉ~、もうすぐ閉店なのぉ~」
「えっ?」
指摘を受けた叶がカウンター上の時計に目を移すと、午後二十時五十五分を差していた。
「あぁ、ごめん桃ちゃん」
叶は慌てて立ち上がると、ポケットから財布を取り出して千円札を二枚抜き、桃子に手渡した。
「彼女の分も。つりは要らないよ」
叶の言葉に、桃子は意地悪そうな微笑を作った。
「まぁ!
「そんなんじゃないよ」
笑顔で否定する叶をからかう様に見つめながら、桃子は札をひらひらさせて言った。
「毎度ありがとぉございまぁ~す」
「ねぇ、私コーヒー代出すよ」
「いいよ。わざわざ会いに来てくれたお礼だよ」
愛美の申し出を断った叶は、出入口の扉を開けて愛美を促した。「ありがとう」と言って外へ出ようとした愛美の目が、脇に貼られたチラシを捉えた。
外へ出た愛美に、叶が問いかけた。
「そう言えば、オマエ今何やってんだ?」
「私? あぁ、私は今ここに
愛美は肩に掛けたトートバッグの中から名刺入れを取り出し、名刺を一枚出して叶に示した。叶が受け取って見ると、『株式会社レッド・コーポレーション 営業部 営業企画課』と記載されていた。『レッド・コーポレーション』は、スマートフォン用アプリケーションの開発や、ソーシャルゲームの運営を手掛けるIT企業である。
「へぇ。結構良い所だな」
「まぁね。本当は、プログラマーの方に行きたかったんだけど、競争率が高くて入れなかったんだ」
「そうか、大変だな」
「うん、でもまぁ、何とかやってる」
微笑を作って応える愛美に、叶も微笑を返す。
「じゃあ、帰るね。コーヒーごちそうさま」
「気にすんなって。幸雄によろしくな」
互いに
「麻美ちゃん、見つかるといいね」
「……ああ」
離れて行く愛美の後ろ姿を見送る叶の脇腹を、いつの間にか外に出て来ていた桃子がつついた。
「ともちん、鼻の下伸びてる」
「勘弁してよ」
《続く》
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