友情遊戯 #2

 けたたましいサイレン音と共に、救急車が『桜川さくらがわ病院』の駐車スペースにすべり込んだ。看護師達が待ち構える前で後部ハッチが開き、中からストレッチャーに乗せられた患者が救急隊員の手で運び出された。患者は、叶のバンデン・プラに追突した車の運転手だった。

 それから一分も経たずに、もう一台の救急車が到着した。こちらに乗っていたのは、叶と玲奈だった。先に来た救急車が走り去るのを横目で見ながら、叶がぼやいた。

「何で同じ病院なんだよ?」

「しょーがないじゃん、他に受け入れてくれる所が無いってんだからさ」

 応える玲奈と救急隊員に両脇りょうわきを固められて、叶はひとりの出迎えも無い病院に徒歩で入った。

「では、こちらで少々お待ちください」

 叶に会釈えしゃくして立ち去った救急隊員に代わり、若い女性の看護師がバインダーを抱えて近寄った。

「すみません、お話聞かせてください」

 笑顔の看護師に、叶が首に手を当てがったまま愛想笑いすると、スマートフォンに目を落としながら玲奈が小声で言った。

「アニキ鼻の下伸びてる」

「黙れ、オマエここ病院だぞ、スマホやめろ」

 叶の注意に、玲奈は無言で舌を出して応じた。軽く舌打ちしてから、叶は看護師の質問に答え始めた。

 問診もんしんを終えてから、ふたりはたっぷり三十分近く待たされた。叶は時計を見て溜息を吐くが、玲奈は相変わらずスマートフォンを操作しながら欠伸あくびを繰り返している。

「ねぇ~まだぁ?」

 玲奈も待つ事に倦み始めた頃、『救急外来』と書かれた扉が横にスライドし、中から先程とは別の看護師が顔を出して、叶に視線を向けて告げた。

「お待たせしました、中へお入りください」

「やっとか、待ちくたびれたぜ」

 叶が小声で悪態を吐きながら立ち上がると、玲奈は顔をスマートフォンに向けたままおざなりに手を振った。

「行ってらっしゃ~い」

 溜息混じりに中に入り、看護師に促されるまま俯き加減で丸椅子に腰を下ろした叶に、男の声が質問した。

「叶友也……って、お前、元プロボクサーのあの叶か?」

「え?」

 叶がいぶかしげに視線を上げると、『外科 吉鷹 幸雄』と記された名札が見えた。心当たりの無い名前だった。ボクサー時代のファンかと思い、叶は面倒臭そうにゆっくり頭を上げた。目の前の吉鷹よしたかという外科医は、叶の顔を直視するなり笑顔でおのれの顔を指差して言った。

「おぉ~やっぱり! 俺だよ、川上幸雄かわかみゆきお!」

「川上ィ?」

 突如違う苗字みょうじで自己紹介された叶は、戸惑いつつ自分の記憶を辿たどった。数秒後、叶が目を大きく見開いた。

「あぁ! 小五の時に転校した川上か!」

「そぉーだよぉ、久しぶりだなぁおい!」

 周囲の看護師達が呆気あっけに取られるのも構わず、吉鷹と叶は再会を喜び合った。


《続く》

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