おとうと #23

 突然、目の前で土下座されて呆気に取られる美緒に、義勝が額を地面にこすりつけんばかりに下げて声を張り上げた。

「今後一切、君と忍君には手を出さないと誓います! 本当に申し訳ありませんでしたぁ!」

 傍迷惑はためいわくな大声での謝罪しゃざいを終えた義勝は、素早く立ち上がって美緒に最敬礼さいけいれいし、全速力ぜんそくりょくで公園から出て行った。怒濤どとうの様な出来事に言葉も出ない美緒に代わって、玲奈が眉間に皺を寄せて言った。

「何あれ?」

 そこへ叶が、玲奈に右手を差し出しながら応えた。

「ちょっとした警告がいた様だな。玲奈、よく頑張がんばったな」

 その声に、玲奈は叶を見上げて目に涙を浮かべ、自力で立ち上がって叶に飛びついた。

「もぉ~怖かったぁ! 学校出たらさっきのヤツ等が先輩を取り囲もうとしたからウチが先輩をおぶって走って逃げたんだよ! もぉ何で近くに居なかったのよぉ!?」

 玲奈が振るう太鼓たいこの乱れ打ちを甘んじて胸に受けながら、叶が言い訳した。

「悪い、ちょっと寝過ごしちゃってさ」

「何それ~! アラームくらいかけときなさいよ!」

 怒りを増大ぞうだいさせる玲奈の後ろから、西条に助けられて立ち上がった美緒が叶に向かって頭を下げた。

「あの、ありがとうございました」

「いや、怖い目に遭わせてゴメンね」

 叶が謝った直後に、西条が横から割って入った。

「あのさぁ、己フリーライターの西条って言うんだけど、君に頼みがあるんだよね」

「頼み?」

 目を丸くして訊き返す美緒に、西条は笑顔で告げた。

「実は、バニー服部の独占インタビューを取りたくてさ。もしこれが実現したら、とびっきりの特ダネ間違い無しなんだよね」

「オイ、よせ」

 叶が止めようとするが、西条も一歩も引かない。

「ちょっと黙っててくれよな、今交渉中なんだからよ」

「何――」

 西条の物言いが気に障った叶が尚も止めようと口を開きかけた所へ、美緒があっさりと応えた。

「いいですよ、正体を明かさないって約束してくれるんなら」

「マジに? やった、約束するよ」

 意外な展開に叶は瞠目し、西条は手を叩いて喜んだ。

「え? いいのか?」

 叶の問いに、美緒は微笑して答える。

「はい、忍の事が世間に知られなければ大丈夫ですから」

 当事者の姉にそう言われると、部外者の叶にそれ以上突っ張る理由は無かった。

 美緒からの許可を得て御機嫌ごきげんの西条は、ひと足先に公園を出て、叶達を振り返って告げた。

「じゃあ美緒ちゃん、改めて連絡するから。あ、それと、また会おうぜ探偵さん、いや、ともちん!」

 虚を突かれた叶に反駁はんばくの機会を与えずに、西条はオープンカーに乗り込んで走り去った。

「クソ、あのハイエナ」

 遠ざかるオープンカーを見送りながら叶が悪態を吐くと、玲奈が叶を見上げて言った。

「また覚えられちゃったね、ともちん」

「うるせぇ」

 吐き捨てる様に言うと、叶は玲奈と美緒をともなって公園を出た。


《続く》


 

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