おとうと #22
叶が駆るバンデン・プラが、升淵高校の正門前に
「クッソ、出られないか!」
吐き捨てる様に言うと、叶はスマートフォンを上着のポケットにしまって学校の近辺を走り回り、途中で通行人に玲奈と美緒の事を尋ねて行った。だが有効な目撃証言は得られず、叶は額に汗を
「キャアーッ!」
「今のは!?」
叶は悲鳴の上がった方向の見当をつけて駆け出した。
見えて来たのは、集合住宅に
「アイツ、か?」
怪訝そうな顔で独りごちた叶が公園に
「オマエ等! 何やってる!?」
叶の声に、男達が
「ふたりとも無事か!?」
叶が訊くと、玲奈が顔を上げて睨みつけた。
「もぉ! 遅いよ! 何やってんの!? このオジサンが来てくれなかったら危なかったんだからね!」
オジサン呼ばわりされて苦笑いする西条に顔を向けて、叶が言った。
「礼を言うべきか?」
「あんたの礼より、バニー服部の
「まだ言ってやがる」
トップ屋
「何ゴチャゴチャやってんだ? 死にたくなかったらそこどけ」
「だってさ。どうする?」
西条が男達に視線を向けたまま訊くと、叶は顎を引いて答えた。
「どくか。依頼人を守るのも探偵の義務だ」
「だよな」
西条の微笑が
「じゃあ死ねコラァ!」
その声を合図に、他の四人が一斉に襲いかかった。直後に叶が鋭く前に踏み込み、木刀を振りかぶったリーゼントの男の顔面に左ジャブを突き、のけ反った所へ
一方の西条は、金属バットを持つ男の一撃を半身でかわし、腹を
「げぇっ」
男が
ひと
「チッ、どいつもこいつもだらしねぇ」
独りごちたリーダー格が、自分の方によろめいたチンピラ風に
「なかなかやるじゃねえか、おっさん」
「おっさんとか言うなよ、こう見えても若作りなんだから」
西条のジョークを聞き流して、リーダー格は鋭い右前蹴りを放った。西条がバックステップでかわす間に間合いを詰め、左右の拳を連打した。その回転の速さにガード一辺倒になってしまった西条の
「ぐぉっ」
思わず声を
「がはっ」
その場に崩れ落ちて咳き込む西条に尚も歩み寄るリーダー格の前に、叶が立ちはだかった。
「あ? あんたも死にてぇか」
男の言葉に、叶は片方の
「そのセリフ、そっくり返してやる」
リーダー格は目を見開いて舌打ちすると同時に、地を蹴って前方に
「さっきのおっさんよりかはマシみてぇだな」
「喧嘩っ
叶が言い終える間に、リーダー格が短く息を吐いて踏み出し、左ハイキックを打った。叶が頭を下げてかわすと、リーダー格は軸足一本でジャンプし、打点の高い飛び後ろ廻し蹴りを出した。叶は
「クソッ」
思わず
「ぶぉっ」
リーダー格の身体が、膝から崩れ落ちた。沈黙した男達を
「オッサンなめんなよ」
「やるじゃねえか、ハイエナ」
微笑して言う叶に、西条も微笑しながら応える。
「シロウトだって、やる時ゃやるぜ」
西条が叶の右手を掴み、叶が引っ張り上げて西条を立たせた。ふたりして美緒と玲奈の方に行こうとした時、リーダー格が身体を震わせながら上半身を起こした。
「クソ……殺してやる……」
「なかなか
「頭の中身もな」
叶と西条が身構えた所に、彼方から男の叫び声が聞こえた。
「やめろぉ~!
公園に駆け込んで来たのは、升淵高校の制服を着た男だった。リーダー格が振り返って言った。
「義勝坊ちゃん……」
その男こそ、柔道部主将の藤堂義勝だった。
義勝は、叶と西条にぶちのめされた四人と、地面に尻を突いて見上げるリーダー格を見て、次に玲奈に抱えられる美緒を見てから、再びリーダー格を見下ろして告げた。
「よく判らんが、とにかくもうこの話は無しだ。さっさと引き上げろ鉄雄!」
鉄雄と呼ばれたリーダー格は、呆れた様にかぶりを振ると、よろめきながら立ち上がって義勝を見下ろして言った。
「だったら、もうちょっと早く来てくれよ」
その
「すまなかった!」
《続く》
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