おとうと #16
『インハイ予選、
『俺の方が強いんだよ』
『1回勝ったくらいで調子乗んなよ』
『そういえばおまえの姉ちゃん 俺のクラスの隣だったな』
『予選辞退しないと 判ってんだろうな』
直接的な表現こそ避けてはいるが、明らかに『主将』
「……やっぱりな。こんな事だろうと思ったぜ。それにしてもしょうもねぇ事するな、オマエん所の主将は」
「は、はい……」
呆れ顔で叶が言うと、忍は申し訳なさそうに肩をすくめた。叶はアプリを閉じてスマートフォンを忍に返し、再び立ち上がった。
「判った。そういう事なら、姉さんの事は心配すんな。オレにとっても大事な依頼人だからな、守るのは当然だ」
「探偵さん……ありがとうございます」
恐縮して頭を下げる忍の肩に手を置こうとして、叶は一瞬投げられるのを警戒して
小雨が降る中、和風の木造住宅の前にバンデン・プラが停まった。表門の扉の上に『服部』と掘られた木の表札がかかっている。
エンジンを切った叶がシートベルトを外して外に出ようとするが、忍は助手席から離れる素振りを見せない。
「どうした?」
訝しんだ叶が訊くと、忍は俯いて蚊の鳴く様な声で応えた。
「母さんや、姉さん、怒ってるだろうな」
呆れてかぶりを振った叶が、少し語気を強めて言った。
「オマエ、そんな事でビビってんのかよ? 迷惑かけたんだから、ちょっと怒られるくらい覚悟しろよ! 何だここまで来て」
「は、はい……すみません」
諦めた様に頷き、忍はのろい動作でシートベルトを外した。叶は忍が車外で出たのを見届けてから運転席を出てドアをロックし、表門の脇に
『は~い、どちら様ですか?』
スピーカーから母親と思しき女性の声が聞こえた直後、叶は忍をインターホンの前に押し出した。
「ホラ!」
叶の
「あ、あの……忍、です」
その途端、インターホンの向こうから異常なノイズが響いた。数秒後には玄関扉の開く音が聞こえ、直後に表門の扉が内側に勢いよく開かれた。
開放された扉の向こうに、忍の母親が荒い息で仁王立ちしていた。最愛の息子の姿を認めると、目を真ん丸にして声を上げた。
「忍!」
母親の呼びかけに、忍は少し
「た、ただいま、母さん」
すると、母親が俯きながらも猛ダッシュで忍に抱きついた。
「か、母さん?」
戸惑う忍の胸に顔を埋め、母親は人目も憚らずに泣き喚いた。
「良かったぁ! もぉ~お母さん心配で心配でたまらなかったんだから! あぁ、本当に無事で良かった」
「母さん……」
小雨に肩を濡らして、棒立ちのまま母を見下ろす忍を、叶は
《続く》
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